わたしの前著『キリンビール高知支店の奇跡』が、20万人以上の読者に共感されたのは、1995年当時の高知支店の状態に、現在の日本企業に通じる点が多いからではないでしょうか。
というのも、わたしが支店長として着任した当時の高知支店が、まさに同じ「症状」を呈していたからです。
当時のキリンは、コンプライアンスについてはいまほど関心が高まっていなかったものの、分析と計画については、明らかに過剰状態にあり、「自分たちは言われたことをやっているのだから」と、現場はあきらめの空気が支配していました。
管理から個人の自立を促すスタイルへ
現場で働く社員たちは、本社からの指示をこなすことに追われ、それが成果に結びつかなくても、どこに問題があるのか確認する時間をもてないうちに、また次の指示が下りてくる。「誰がこんな企画書を読むのだろう」というくらい分厚い資料が、本社から送られてきたことも頻繁にありました。
支店長も上への報告と改善案の作成に追われ、部下をまともに指導する余裕もない。メンバーも、指示とは違う動きをして上司に怒られたくないし、チーム内で「仲間外れ」になるのを恐れて、指示待ちで仕事を行なう。
結局、本社も、現場のリーダーやメンバーも、「何かおかしい」「なんとかしなければ」と思いつつ、確信も自信ももてないため、毎日が過ぎていく。
組織と社員の関係性を改めて考えると、組織は目標を達成するために存在し、社員はその組織を構成する「歯車」といえます。
しかし、本社の指示に従っても歯車はうまく回らず、業績は下がり続けるとなると、いったいどうすればいいでしょうか。
歯車は自分で回すもの
自力で歯車を回せばいいのです。
本社が正しい戦略をつくれるようになるには、強い現場をつくること、そして本社と現場の創造的関係を築くことが不可欠です。本社と現場のあるべき姿は、情報や意見を相互に出し合いイノベーションを起こし続けるような創造的な関係です。
スタートは現場の自立です。そのうえで本社と現場の情報ギャップを埋めていくことです。
高知支店における取り組みがまさにそうでした。高知のお客さまにキリンビールを飲んで幸せになってもらう。そのために、本社に提案をする。もし本社の戦略が間違っていると思えば直してもらうように働きかける。
一方、本社は現場を自分のこととしてとらえる。これが本社と現場の創造的関係です。つまり本社も支店も自立する精神が求められるのです。
わたしが高知支店の社員たちと一緒に始めたのは、管理する文化しかなかったキリンビールにおいて、本社を見ながら仕事をするのをやめたことです。その代わり、徹底的に顧客と向き合うことにしました。
それは、「お客さま本位」「品質本位」というキリンビールのかつての理念を高知で実現しようとする「挑戦」であり、「キリンビールの原点回帰」そして「源流の強化」ともいうべきものでした。つまり、本社も支店も自立する精神が求められるのです。
元キリンビール代表取締役副社長
1950年、東京都生まれ。成城大学経済学部卒。95年に支店長として高知に赴任したのち、四国4県の地区本部長、東海地区本部長を経て、2007年に代表取締役副社長兼営業本部長に就任。全国の営業の指揮を執り、09年、キリンビールのシェアの首位奪回を実現した。11年より100年プランニング代表。16年に発刊した『キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え!』(講談社+α新書)がベストセラーに。