財務省の決裁文書改竄、事務次官のセクハラ辞任、東京医科大学への子息の裏口入学……。役所の不祥事が止まらない。元厚労次官で、「郵便不正事件」に巻き込まれた経験を持つ村木厚子氏は「改竄は私の経験でも聞いたことがない。前代未聞で信じられないこと」と驚く。さらに、「日本型の組織、特に役所は世間との自分たちとの“物差しのずれ”に気づけない」と指摘する――。

※本稿は、村木厚子『日本型組織の病を考える』(角川新書)を再編集したものです。

冤罪事件後、検事総長は「ありがとう」と言った

2009年、私は大阪地検特捜部による冤罪(えんざい)に巻き込まれ、半年間の拘置所生活を経験しました。その後、検事による証拠改竄などが発覚して無罪判決を勝ち取り、2010年に職場に復帰。いわゆる「郵便不正事件」について、ご記憶の方も多いかと思います。2013年から2年間は、官僚のトップである厚生労働事務次官も務めました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/microgen)

この冤罪を受けて「特捜解体論」まで出る中、検察のあり方が検討され、その後の刑事司法制度改革につながりました。事件の後、何代かの検事総長にお目にかかりました。その方々は、一様に私に「ありがとう」と言いました。

どういうことかというと、検察としては、失敗は許されない、間違いも許されない、だから無理な取り調べをして過ちに気づいても引き返せない。そういう組織のいわば「病理」に気づいていても、中からは変えられなかった。私の事件があって、その抱えている病理がセンセーショナルな形で露見して、やっと組織が変わるきっかけができた。だから「ありがとう」だというのです。

もしかしたら、日本の他の組織も何かしら、このような内側からは変えられない病理を抱えているのかもしれません。実際、最近は信じられないような不祥事が相次いでいます。

2018年になって、財務省の決裁文書の改竄が明らかになりました。改竄は昔からあったと言う人もいます。でも少なくとも、多くの人の決裁印が押された決裁文書を組織的に改竄するということは信じられないし、聞いたこともありません。

「建前」と「本音」から不祥事を読み解く

役所の仕事の中で、記録はとても大事なもの。公の仕事なのですから、客観性が大事で、記録はきちんと残しておかなければいけません。後に続く仕事の土台になるものだし、仕事の検証にも欠かせません。後からなぜその判断をしたのか、なぜその事業にお金をつけたのか、あの判断は本当に正しかったのかなどが問われた時に、記録は正当性や、政策を見直す根拠となるのです。それが結果的に、自分や自分の組織を守ることにもつながります。

公文書の改竄や廃棄、セクハラによる辞任など、一連の事件を見ていてキーワードの1つになると思うのが、「建前」と「本音」です。