これらの国でもゼネストや暴動が起きているが、それでも日本より財政状況はマシなのだ。日本がヨーロッパ型の財政危機に陥ったら、そんなものでは済まされない。45兆円の税収しかないのに100兆円の予算を使っているのだから、予算の25%カットでも生ぬるい。バジェット(予算)のバランスを取ろうと思えば、歳出を半減し、税金を倍増しなければならない。

それはつまり、政府のサービスが半分になるということだ。週2回来てくれていた介護サービスが週1回になり、子供が通う学校が遠くになるかもしれない。皆で節電してこの夏を乗り切った日本人だから「まあ仕方がない」と思うかもしれないが、そこから先は我慢できない領域に入ってくる。

財政危機の第1幕がバジェットカットなら、第2幕は「ハイパーインフレ」だ。日本の国債がデフォルトするか、デフォルトに近い状態になったら、ハイパーインフレが必ずやってくる。

過去に財政破綻でハイパーインフレに見舞われた国は数多い。この20年でもアルゼンチン、ブラジル、ロシア、トルコ、スロベニア……私はそれらの国のハイパーインフレを全部見てきたが、物の値段にゼロが5つも6つも増えていく様は凄まじかった。スロベニアでは封筒に郵便切手を貼るスペースがなくなるほどだったし、おかわりした2杯目のコーヒーの値段がもう上がってしまっていたほどだ。

ハイパーインフレにどう備えるべきか、3つだけアドバイスしておこう。

1つ目は、「銀行預金は避ける」こと。預金が紙屑になるのがハイパーインフレだ。預金している間に価値が100分の1、1000分の1になってしまう。タンス預金も同じこと。一番いいのは外貨を分散してタンス預金しておくことだ。

2つ目は、「カネをモノに替える」こと。インフレではモノの価値が相対的に上がる。史上最高値を更新している「金」もいいが、キャッシュフローを生むような「不動産」も必ず上がる。それから「株」。会社が生み出す富はインフレのときには価値が上がっていく。インフレでひっくり返るような会社の株はダメだが、たとえばコンシューマー関係でグローバル化して生き残れる会社の株ならOKだ。

そして3つ目は、「自分に投資する」こと。腕力でも知力でもスキルでも、余人をもって代えがたい能力があれば必ず価値が高まる。日本がひっくり返ったら、まずは当面、世界に飛び出して稼げるぐらいの能力を身につけること。これがインフレに一番強い。

※すべて雑誌掲載当時

(小川剛=構成 Imaginechina/AFLO=写真)