なぜ「携帯電話料金値下げ」の指示が「0円端末禁止」になったのか

では総理大臣の指示を受けて、携帯電話料金はその後、どうなったか?

結論として、「携帯電話料金値下げ」指示は「0円端末の販売禁止」へとすりかわっていってしまった。

吉川尚宏『「価格」を疑え』(中公新書ラクレ)

詳しく説明すると、NTTドコモ、KDDI(出資先の沖縄セルラーを含む)、ソフトバンクといったMNO(Mobile Network Operator)と呼ばれる携帯電話会社は、新しく契約し直したり、機種変更を行う消費者に対して「端末補助金」と呼ばれるサポートを用意し、事実上0円で端末を提供したり、キャッシュバックを提供したりしてきた。

他方、携帯電話会社を切り替えたり、機種を頻繁に変更したりしない消費者にとってはそうした補助金やキャッシュバックによるメリットは受けられない。

総理大臣の指示を受けて総務省で始まった携帯電話料金の高さに関する議論は、いつしか論点が微妙に変わっていき「ここでの不公平を是正しよう」という話に切り替わっていったのである。

「消費者のため」という名目を掲げている以上、その政策も一面では正しいように見える。しかし今回の場合、料金の低廉化と論理的につながっていない。

0円端末を禁止すれば、確かに携帯電話会社は「端末補助金」を減らすことができる。ただ、「端末補助金」が減ったことによって余った原資を、それぞれの会社が料金値下げにそのまま使うかどうかは全く別の問題である。

国が価格政策に関与すべきなのか

携帯電話会社のインセンティブとは利益の最大化で、消費者への還元の最大化ではない。現にこの0円端末禁止が導入された後の2016年度において、各携帯電話会社は2015年度よりも利益を増やしている。

そして0円端末の禁止はそもそも端末の流通過程を考えると、奇妙な政策である。すなわち、独占禁止法でいうところの「再販売価格の拘束」に該当する懸念があるからだ。

携帯電話端末はメーカーから携帯電話会社、そして販売代理店へと流通していき、端末価格の決定権は販売代理店にある。だからこそ、0円端末を禁止することは販売代理店の価格設定の自由度を奪うことになる。もし携帯電話会社側が強制すれば、販売代理店に対する再販売価格の拘束となってしまうのである。