「携帯電話料金」を下げるにはMNOの数を増やすしかない

ではもしMNOとMVNOを競争させると何が起きるのだろうか?

写真=iStock.com/Kwangmoozaa

MVNOの原価構造とは、MNOから借り受ける周波数帯域や回線に伴うコストが大宗を占める。だからこそ、単純な回線サービスであれば利幅は薄い。それでいてMNOと同様なサービスを提供しようとすれば、店舗網の整備費用や販売費用などがかさむ。それに加えてもともとの体力格差もあるから、MVNOがMNOと同じ土俵で戦っても絶対に勝てない。

そうした事業構造を持つMVNOを、総務省が普及させようとした結果、確かに社数は886まで増加した(2018年3月時点)。しかしそのほとんどの体力は極めて脆弱で、業界の再編は避けられない状況と言ったほうが正しい。

現在のMNOからすると、自社でカバーしきれない市場セグメントをカバーしてくれるのがMVNOである。そうした市場で加入者を獲得してくれるMVNOに対し、ボリュームディスカウントといった形を取って、卸価格を優遇しても構わないはずだ。

ところが現在、特定のMVNOを優遇することができないという規制が敷かれている。ここでは政府によって、ダイナミックなプライシングが実質的に禁じられており、価格統制が行われているのである。

料金を下げるにはMNOの新規参入が必要

JALやANAの競争相手を増やすために必要なのは旅行会社を増やすことではない。航空会社を増やすことである。それが現実化したのがLCC(Low Cost Carrier)である。

彼らは実際に新規の航空会社として空港の発着枠を獲得し、機材にも投資している。つまりMNOなのである。

今の日本には格安スマホを提供する事業者が多く出てきている。しかし彼らは所詮MVNOであり、航空業界でいうところのLCCではない。

著書『「価格」を疑え』(中公新書ラクレ)に詳しく記したが、結局、携帯電話業界の競争を活性化して、その料金を引き下げるためには、MVNOではなく、MNOの新規参入が必要である。それは間違いない。

現在、4社目のMNOとして楽天の参入が正式に決まり、19年10月からのサービス開始を目指している。ビジネスそのものが上手くいくかは分からない。ただしその成否が、私たちが「高い」と感じている携帯電話料金の行く末を左右する可能性が高い、ということは間違いなさそうだ。

次回、その“楽天携帯”の可能性についてより深く検討をしてみたい。

吉川 尚宏(よしかわ・なおひろ)
コンサルタント
1963年、滋賀県生まれ。A.T.カーニー・パートナー。京都大学工学部卒、京都大学大学院工学研究科修士課程修了、ジョージタウン大学大学院IEMBAプログラム修了(MBA)。野村総合研究所などを経て現職。専門分野は情報通信分野の産業分析、事業戦略、オペレーション戦略など。総務省情報通信審議会のほか、周波数オークションに関する懇談会等の構成員として政策提言を行う。著書に『ガラパゴス化する日本』(講談社現代新書)、『「価格」を疑え』(中公新書ラクレ)など。
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