NTTの同期入社で退職したのは自分が最初だった
【千本】日本の状況も同じで、日本の生活は世界の中では比較的快適で微温的な環境です。潜在的な競争力を徐々に失っているのになんとなくまだやっていけるのではないかと思っているのではないでしょうか。微温的な環境に甘んじるのではなく、リスク感覚を研ぎ澄まし、リスクに果敢に挑戦することが大切です。
【安井】東京電力や東芝など名門企業が一気に苦境に陥っているのに、大きな会社にいた方が安心という考え方はまだ根強いように思いますが、いかがでしょうか。
【千本】私がNTTを辞めたのは1983年です。その年、いわゆる「天下り」ではなく自分の意志で退職したのは私一人でした。同期入社で退職したのも私が最初でした。その時代は上司に「辞めるな」と脅され、泣き落とされるという状況でした。しかも辞めて、ライバル会社をつくるというのですから反社会的行為のような受け止めでした。
それが今ではどうでしょう。NTTを辞めて他社に移ったり、ベンチャーをつくったりする人は増えています。日本も変わっていないようでずいぶん変わってきているとは思います。日本の大きな会社では、「人事部」に自分の人生を決められているようなものです。「来月から○○支店に行ってくれ」と通告されてしまう。確かに会社に従っていれば、それなりに安定した人生が送れるかもしれませんが、それでいいのでしょうか。
私がNTTを辞めたのは自分の人生は自分で決めたいという思いが強くなったからです。若い人だけでなく、中高年のビジネスパーソン、あるいは退職後の人たちにも、この本を読んでいただき、自分の人生は自分で選び、新たな人生に挑戦してほしいのです。そうした人が一人でも増えることで、日本が再び輝きを増していくのではないかと考えています。
レノバ会長
1942年生まれ。京都大学工学部電子工学科卒業、フロリダ大学Ph.D。日本電信電話公社(現NTT)入社、その後、1984年に第二電電(現在のKDDI)を稲盛和夫氏らと共同創業し、副社長に。95年に慶應義塾大学大学院教授に就任後、カリフォルニア大学バークレー校、カーネギーメロン大学の客員教授を経て、99年イー・アクセス株式会社を創業、05年イー・モバイルを設立。14年に再生可能エネルギー会社、レノバ社外取締役に就任。現在、同社会長。