原子力発電に関する考え方を「改宗」したワケ

【安井】千本さんの人生は挑戦の連続です。長い間通信事業、インターネット事業に関われていましたが、今は再生可能エネルギー事業に身を置かれています。それはなぜですか。

【千本】本の中でも触れていますが、私は社会的な矛盾があるところにビジネスがあると思っています。社会の課題を解決するために会社は存在するからです。例えばNTTが独占していた電話事業の真の自由化が日本には必要でした。そのために第二電電をつくったのです。日本が米国に比べインターネット環境が貧弱だった時代にこれでは日本の産業は発展しないと思い、イー・アクセスを起業しました。

大きな時代の変化を見た時に行動を起こすことが大切です。今回のレノバへの参画は世界的なエネルギー革命の動きから日本が取り残されてしまうのではないかと考えたからです。情報通信とエネルギーは大きく違いますが、産業にとってはいずれも根幹に位置する重要な事業です。産業を支える事業で貢献したいという思いは同じです。

【安井】原子力発電に関する考え方も「改宗」されたと書かれています。

【千本】東日本大震災による東京電力福島第一原発事故は私にとって衝撃的な事故でした。私は大学で原子力の制御理論を勉強しました。原子力に無限の可能性を信じ、エンジニアは原子力を制御できるものだと考えていました。

ところが福島の事故を目の当たりにして、原子力はエンジニア、もっと言えば人類が制御できないものではないかと思うようになったのです。エンジニアが持っている万能感は間違いではないかと「改宗」したのです。

【安井】2011年のことですからイー・アクセスの経営に関わられている頃ですね。

【千本】再生可能エネルギー事業に取り組もうと考えたのはイー・アクセスをソフトバンクに売却したあとです。イー・アクセスの経営から身を引き、実は私は多くのビジネスパーソンが陥るといわれる燃え尽き症候群のような状態になっていました。50年ほど走り続け、ゴールしたと思ったら、心の中にぽっかり隙間ができてしまったのです。

その隙間を埋めてくれたのがレノバ社長の木南陽介さんとの出会いでした。木南さんからレノバの経営をサポートしてくれませんかとお願いされたのです。原発事故を契機に私は「改宗」していました。心の奥底にあった再生可能エネルギーへの関心に火がついたのです。