※本稿は、細川晋輔『人生に信念はいらない』(新潮新書)の第7章「『心の柱』を打ち立てる――考える禅」を再編集したものです。
しなやかにたわむ「心柱」の強さ
みなさんは五重塔をご存じでしょうか。日本には、明治維新以前の五重塔が22基現存しています。古くは飛鳥時代に建立されたものもありますが、五重塔は高層建築にもかかわらず、建立後これまで、焼失の場合は別として、どれ一つとして倒壊していないそうです。
それは、塔の中心に「心柱」と呼ばれる柱があるからだと言われています。心柱とは、地面に置かれた礎石から塔の頂点までを貫く中央の一本の柱です。
建築の専門家ではないので詳しいことはわかりませんが、心柱というものは、礎石の上に載せられるだけであり、固定されていないそうです。そのため、地震や強風があった際、振り子のように、塔自体の揺れを柔らかく抑え、倒壊を防ぐことのできるのです。
東京スカイツリーは634メートルもの高さがあるわけですが、その耐震構造として、日本に古くから伝わる五重塔の技術が用いられているそうです。現代の最新技術と伝統的構法が出会い、心柱と外周部の塔体とを構造的に分離することによって免震するという新しい制震システムが用いられて、634メートルという超高層タワーが建築されたそうです。
この心柱は、どういう柱なのでしょう。大きな特徴としては、頑なに揺れない柱ではないそうです。揺れに対して、素直にたわむことができる柱です。それによって五重塔が、地震の揺れに強いと言われているのです。
「心の柱」を確立すること=禅の悟り
この心の柱を、禅の言葉に結びつけて考えていきましょう。
「応無所住而生其心」――応に住する所無くして、その心を生ずべし。
という禅語があります。これは、『金剛経』というお経の眼目、つまりは一番大事なところです。
お釈迦様が十大弟子の一人である須菩提に、「人生を軽快に生きるためのコツ」を説かれた句であり、また中国の名僧である六祖慧能禅師の禅門に入るきっかけとなった句でもあります。
「住する」とは心がとらわれること、執着することを意味しています。つまり「住するところが無い」とは「心は自由自在に働きながら、それでいて停滞する所が無い」ということになります。