裁判の判決で「訴訟費用は被告人の負担とする」との文言が入るのを聞いたことがあるだろうか。

日本の民事裁判(民事訴訟法第61条)には勝訴すれば「訴訟費用の敗訴者負担の原則」が明記されている。弁護士費用で多額の経費がかかったとしても勝てば相手方の負担になるはずだから、勝てる見込みがあるなら、お金がなくても裁判は起こせる、という考えを持っている人がいるかもしれない。

「実は民事訴訟法でいう『訴訟費用』には弁護士費用は含まれないのです」

と語るのは、東京東部法律事務所の後藤寛弁護士だ。

「訴訟費用とは、裁判を起こすときに使う印紙代や出頭費用など細かなもので実は大した額ではないのです。裁判で一番お金がかかるのは弁護士費用であり、それは法律でいうところの『訴訟費用』には含まれていないのです」(後藤弁護士)

勝とうが負けようが、弁護士費用はあくまで自己負担になるわけだ。では、実際の弁護士費用とはどのくらいの額になるのか?仮に100万円を請求する民事裁判を起こしたとして、多くの事務所が採用する東京弁護士会の旧報酬規定により、単純計算すると、

法律相談料 5250円/30分
内容証明郵便作成 3万1500円~
着手金 100万円×8%×消費税
報奨金 100万円×16%×消費税

などが主な費用。これらをざっと計算すると全面勝訴した場合約25万円となり、敗訴した場合、報奨金は支払う必要がないが、着手金は自己負担。つまり、一部勝訴で50万円の支払いが判決として認められたとすると、手元に残るのは30万円あまりとなる。さらに自分の経費や本来の訴訟費用など、モロモロを入れると手元に残るものはなくなってしまうのが現実のようだ。しかし、それだけではない。

「実は、相手負担が認められる訴訟費用に関しては、実際に請求するには別途訴訟費用を確定する手続きが必要なこともあって、勝訴しても、相手に請求することはまれのようです。仮に1000万の訴訟をしても印紙代は5万円なので、最終的に敗訴した側に請求しないことが多いのです」(同)