「松本の10の考え方」が社員の意識を改革
代々創業家が経営を担ってきたカルビーに外からプロ経営者を連れてきたのは、創業家出身で当時会長だった松尾雅彦氏(故人)だ。
松尾氏からボールを渡された松本氏は、直ちに組織の基本となるガバナンスの徹底と、コスト削減の仕組みづくりに着手。地産地消で全国17の工場がばらばらに行っていた原材料購買を本社一括とし、工場の稼働率を上げ生産量を増やした。その分の利益を原資として製品の値下げを断行。シェアを増やすことで売り上げを伸ばしてきた。一方、社内に向けては、社員の意識改革を図るため「松本の10の考え方」を発表。結果主義を徹底する。
日本企業の共通点は「儲け方を知らないこと」
──着任早々、予定していたように、矢継ぎ早に改革を進めていった。
【松本】「前年に社外取締役として様子を見ていましたから、やるべきことはわかっていました。カルビーという会社が面白いのは、圧倒的な強みとちょっとした弱みとが混在しているところです。だからある時期、成長していなかった。しかし強みを生かし、弱みを強みに変えれば、この会社はよくなることが見えていました。圧倒的な強みとは製品のよさです。世界中のスナック会社が束になっても、カルビーの製品には敵わない。それくらいカルビーの製品はいい。弱みは儲け方を知らないこと。これはカルビーに限ったことではなく、日本の多くの会社にある共通点ですよ。私のやり方は『成果に結びつく改革をできるだけわかりやすくやっていく』ということに尽きるんです」
──社員に結果責任を問う厳しい風土をつくる半面、権限委譲を重視した。
【松本】「権限委譲がなぜ重要かというと、人を育てる最大のツールだからです。権限を持たされるとそれなりのプレッシャーはあります。しかし人間は権限を与えられたら嬉しいんです。だから元気になるし、成長もするんです」
「子どもに小遣いをやるといったって、親があれ買っちゃいかん、これ買っちゃいかんと言うと、子どもは育ちません。たとえば1カ月3000円をあげるとする。それを1日で使ってしまえば、あとの29日はゼロです。『お父さん、もっとちょうだい』と言ってきてもあげない。そうすると、翌月からは考えますよね。大人も同じなんです。失敗から学んだらいいんです」