気をつけなくてはならないのは、トップセールスのやり方を真似させるのは簡単だが、それが目的ではないということだ。営業を科学しようとするとき、トップセールスは実はややこしい存在だ。なぜ売れるのか、私たちが分析しても理解できない天才的な営業マンもおり、そのままでは学びの対象にはならない。

あるいは、ヒアリングの結果、営業のリアクションが遅いことが判明したとする。しかし営業マンは忙しく働いているとすれば、ムダな時間があるのではないかとの仮説が立てられる。

仮説が立った時点で、実質営業時間の調査を行うこともある。企業によって5分単位、10分単位で営業マンが何に時間を使っているかを洗い出す。だが、その場合でもまずは仮説ありきだ。データはあくまで仮説を証明するためのものであり、仮説を立てる際に最も大切なのは多面的に現場からの情報を集めることである。営業マンからもヒアリングするし、マネジャーの話も聞く。商品も見るし、営業手法も見る。顧客の声も聞く。仮説が立った時点で、調査分析によるデータも集める。

営業のレベルアップにはゴールがない。どんなに頑張っても競合がもっと頑張れば成果には結びつかない。自分なりとか、自分の会社なりというのはまったく意味がない。要は市場でどれだけの優位性を保てるかである。常に競合を意識してレベルアップに励まなければならず、その作業はエンドレスだ。だからこそ、現状を可視化し、原因を特定し、優先順位をつけて、一番成果に直結するところ、つまり一番悪いところから順に一つひとつ潰してゆかなければならないのである。

それができない結果、何が起きるかというと、多くの営業マネジャーが根性論や精神論に傾く。実際、私たちの会社がコンサルティングに入った現場でも、「そうはいってもやっぱりやる気の問題だろう」との声は多い。しかし百歩譲って「やる気の問題」としても、やる気が出ないのにも理由や原因はあるはずだ。

情報を集め、絞り込み、原因を特定してゆく。それこそが営業を科学するということだ。次回以降では、日常の仕事の場面で、管理職と営業マンがそれぞれ直面する課題を挙げ、データとともに解決策を紹介していこう。

(小川 剛=構成)