顧客はいくらだったら買うのか

価格に関しては、大塚家具は、市場ではニトリ、イケア、無印良品などよりも高級と認知されています。特に新居を購入した人の多くは、少し良い家具を買いたいと考えており、同社はそうした所得中間層をターゲットにできる絶好のポジションにいます。ただ、中間層の平均所得が下がってきている中で、大塚家具の値段設定は、顧客が考える「適正価格」をはるかに超えています。例えば、あるL字型ソファは30万円を超えます。その理由は、「製作にこれだけのコストがかかったから、それに利益をプラスしたらこの値段になった」というコストプラス法の発想で値段を設定しているからです。これでは、腕の立つ職人がどんなに良い製品を作ったとしても、なかなか売れません。売れる製品にするには、「顧客はいくらだったら買うのか」から考え、コストを大幅に下げる必要があります。同時に多様な顧客の好みに合わせることも必要です。その両方を可能にするのがマス・カスタマイゼーションです。

マス・カスタマイゼーションは、規模の経済を達成する大量生産(マス・プロダクション)と、個人のニーズに合わせるカスタマイズを合わせた造語です。大塚家具では、似た方法としてセミ・オーダーを行っていますが、セミ・オーダーが一部のターゲットに向けたものでコストも割高になるのに対して、マス・カスタマイゼーションは大多数をターゲットに適正価格を設定してコストダウンを実現します。

マス・カスタマイゼーションを行うには、より少ない構成部品で多くのバリエーションを生み出せるように、各家具メーカーの構成部品に互換性を持たせる(モジュール化)とともに、リードタイムを短縮するため顧客の注文データが家具メーカーにすぐに伝わるように、一元化されたネットワークシステムを構築する必要があります。データが蓄積されれば、売れ筋がわかり、在庫リスクを低減でき、新製品の開発にも活かせます。この方法は、多くの産業で用いられ、アメリカやドイツの家具メーカーの成功例もあります。

接客がうまくても、商品が高くては売れません。いかにコストを下げて、多様化する好みに対応するかを、まず考えるべきです。サプライヤーは、大塚家具以上に苦しい状況にあります。お互いに繁栄するには何が必要かという観点から、サプライヤーを説得して協力を得る必要があります。

岡部康弘(おかべ・やすひろ)
獨協大学経済学部教授
英国カーディフ大学で博士号取得。International Journal of Human Resource ManagementやAsian Business&Managementなどの学術誌に、仕事に関する価値観の日英比較の研究論文がある。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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