4つの変化が引き起こす深刻なギャップ

(1)生活や社会関係の変化

どの年代でも、その時に応じて幅広く社会関係を築くことができる女性に対して、定年を迎えて高齢期に入った男性は、それまでの生活や人間関係が一変してしまいます。その結果として、頼る相手が妻だけになり、その依存的な関係性が夫婦の力関係を変えてしまいます。

一方で、女性はこれまで築いてきた生活が夫の定年退職によって崩されるかもしれないという危機感を抱きます。これも夫婦間のギャップを生むことにつながります。

(2)収入の変化

家庭の稼ぎ手だった頃に比べると、一般的には定年退職後は収入が減少してしまいます。収入が減ることで、これまでとは暮らし方を変化させないといけない部分もあるでしょう。また、男性は稼ぎ頭というポジションを失うことによって、家庭内での地位が変化しがちです。

(3)病気などによる体調の変化

年齢を重ねるに従い、様々な病気や障害を持つリスクは高まります。親の介護が一段落しても、配偶者の介護の可能性が出始めるわけです。男性の平均寿命は、女性に比べて短いことを考えると、男性の方が早い時期に大きな病気を患いがちです。

体調の悪化は、男性の妻への依存度を加速させ、夫婦の勢力図を書き換えているのかもしれません。

(4)目標や価値観の不一致

子どもが小さい時期には、子育てを夫婦の共通の目標として、一緒に頑張る、あるいは役割を分担することが可能です。しかし、子どもが手を離れてからは、子育てのような夫婦の共通の目標を見つけにくいといわれます。

また、それに伴って夫婦で話し合う機会が少なくなってしまうと、それぞれの価値観にずれが生じていることにも気づきにくくなってしまいます。

死別しても離別しても女性は動じない

婚姻の影響が男女によって違うのではないかという予想もできます。

結婚している状態は比較的分かりやすいのですが、結婚していない(非婚)状態と一口にいっても、色々な状態が混ざっています。一般的に、「未婚」(結婚したことがない)「死別」「離別」を区別して考えます。

ここで紹介する研究は、40~79歳の約9万人の日本人男女のデータを用い、婚姻状況がその後の死亡率にどう影響するかを調べたものです。婚姻状況は、調査した時点で結婚しているか(既婚)、過去に死別しているか(死別)、過去に離婚しているか(離別)、これまで結婚したことがないか(未婚)を尋ねています。さっそく、図を見てみましょう。

まず、男性です。最も死亡のリスクが高いのは未婚者でした。既婚者に比べ、死亡のリスクは約1.9倍です。次に、死別者と離別者ですが、総死亡のリスクは、それぞれ約1.3倍と1.5倍であり、未婚者に比べると低いものの、それでも死亡リスクが高くなっていました。

一方の女性でも、未婚者は最も死亡のリスクが高いという結果で、既婚者に比べて約1.5倍高くなっていました。

しかし、死別と離別を見てみると、男性とは異なる傾向がありました。死別と離別の死亡のリスクは、両方とも約1.0倍であり、結婚している人と同じレベルでした。つまり、結婚していても、死別しても、離別しても、女性の将来の死亡率は同じだということです。