自分の感性を信じ抜いて、決断が下せるか

ゴルフに限らず、アスリートには「自分の感覚や能力を信じる力」が求められる。

時事通信フォト=写真

ダンロップの引地は、畑岡の繊細な感覚と、その感覚を信じる力に舌を巻いた。

「17年9月、ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンでのこと。開幕前にドライバーのバランス調整のため、ヘッドに1グラムの鉛を貼りました。結果は優勝だったのですが、畑岡選手は『ちょっと捕まりが良くなかった』というので、翌週の日本女子オープンでは新たに用意したクラブに変更したのです」

その結果が、通算20アンダーという大会最少スコアでの連覇達成だった。

「一般に、優勝した翌週の試合でドライバーを替えるというのは、なかなかできることではありません。その点、彼女は感覚が鋭いうえに、自分の感覚を信じる力が強い。優柔不断な選手は、私たちに『どっちがいいですか』と判断を委ねるケースも多いんですけど、畑岡選手は違います。私たちが提案したクラブのデータを丹念に比較し、さらに自分のフィーリングとすり合わせて、必ず自分の判断で決めています」

自らの感覚を研ぎ澄ますためには、良い感覚を体に染み込ませるプロセスが必要となる。宍戸ヒルズCCの草野は、納得がいくまで練習をやめない畑岡の姿を、何度も目にしてきた。

「奈紗ちゃんが中学生のとき、宍戸ヒルズCCでジュニアの大会が開催されていました。その大会で、奈紗ちゃんが18ホールを終えた後、ものすごく悔しそうな顔をして歩いてくるのを見かけました。それで表彰式までの間、会場を見渡してみても奈紗ちゃんの姿が見当たらない」

草野があちこち探し回った揚げ句、練習場へ行ってみると、雨の中、1人で白い息を吐きながら黙々とパターの練習をする畑岡の姿があった。

「たしか、その日のスコアは決して悪くなかったはずですが、本人は納得できなかったんでしょうね。私が『奈紗ちゃん、風邪ひくよ』と声をかけたら、いつもどおりの笑顔を返してくれました。驚いたことに、彼女は雨が降っていることに気がついてなかったんです」