日本政府が注目したのは、拉致問題をめぐる北朝鮮側の出方だった。安倍晋三首相がトランプ大統領に問題提起を懇請し、米朝首脳会談で取り上げられたが、金委員長は日朝2国間で話し合う意向を示すにとどめたからだ。

「今回も北朝鮮の姿勢には変化が見られない」

金正日総書記時代に拉致被害者5人が帰国し、その後は「拉致問題は解決済み」との公式見解を繰り返してきた北朝鮮が、再び日朝対話を行う考えを表明したことは「一定の進展」と受け止める声もあるが「非核化や経済支援の課題が進む中で踏み込んだものはない」(自民党幹部)と見る向きは少なくない。

安倍首相は「相互不信という殻をお互いに破って一歩踏み出したい」として金委員長との日朝首脳会談に強い意欲を見せ、萩生田光一自民党幹事長代行も「金委員長から『解決済み』という反応がなかったのは大きな前進」と鼻息を荒くするが、ある日朝関係筋はこう語る。

「今回も北朝鮮の姿勢には変化が見られないと言っていいだろう。金委員長は『なぜ日本は直接言ってこないのか』『いつでも対話する用意がある』としているが、首脳会談でテーブルを囲めば、その結果はこれまでのものを伝えるだけだからだ」

日朝両政府は2014年5月、スウェーデン・ストックホルムで拉致被害者の再調査で合意。北朝鮮は特別調査委員会を設置し調査を開始、日本は調査委が調査を開始する時点で北朝鮮への制裁を解除することにした。

先の関係筋によれば、この時点で北朝鮮サイドは調査結果をいつでも報告できる状態にしている。ただ、日本側は拉致被害者12人の消息について、北朝鮮が繰り返してきた「8人死亡、4人未入国」との立場を撤回するよう要求。日本政府は認定していないものの、拉致の疑いがある特定失踪者へも詳細な報告を求めており、その乖離はなお大きいという。