1977年に出版されたカンター博士の著書“Men and Women of the Corporation”(邦題:『企業のなかの男と女』高井葉子訳生産性出版)は、徹底して社会学の基本に忠実な方法論を用いて書かれた1冊で、20世紀初頭からアメリカで活発になっていたフェミニズム運動に新たな視点をもたらしました。

当時の米国の企業では、管理職は男性、事務職は女性といった具合に性別分離状態が極めて厳格でした。「女性社員には責任感が乏しい」「仕事をすぐ辞める」「高い地位に昇ろうという意欲をもたない」「女性は感情的にふるまいがち」、だから「管理職には向かない」というのが定説になっていました。

一方、男性は「アグレッシブ」「高い地位を得ようと闘いつづける性癖がある」「冷静な判断力と統率力に長けている」、だから「リーダー的地位」には男性が望ましいと、ますます男性を増やした。

女性が4割を超えれば「個人」が評価される

この「女性の悪い特徴」「男性のいい特徴」は、本当なのか? それを確かめようと試みたのがカンター博士です。外部コンサルティングを務めていた「インダスコ社」でトークン(象徴)としての「女性」の存在に着目し、エスノグラフィー調査(対象となるグループの文化的特徴や日常的な行動様式を詳細に記述する方法)を実施。5年という歳月を費やし、徹底的に社会的コンテクスト(その人間関係や行動様式を生み出す状況、環境)にこだわり分析したのです。

その結果、たどりついたのが「数」の重要性です。

・「0」より「1」の不幸は、トークンの占める割合が10%未満で起こる。トークンは“マイノリティー以前”。人権をも無視されるリスクのある極めて危険な環境。
・10~15%未満の場合、集団内のマイノリティーとしての地位が与えられるが、意見を言っても無視されたり、相手にされなかったりするため、目に見えない分断が組織内に生じる。多数派の男性たちは「女たちは結束するとめんどくさい」「女たちは徒党を組むから恐い」「女は勝手」だのと、悪しき“女の特徴”を並べ立て、自分たちの優位性を保とうとする。
・30%になると、男性たちは女性たちを「サブグループ」と認め、「女性の視点は興味深い」など、徐々にプラスに評価する傾向が強まる。サブグループの女性たちも息苦しさから解放され、意見する。
・35%になると多数派はただ単に「数が多い」だけのグループになり、40%になると、バランスが均衡する。

職場で男と女の区別がなくなる比率は「6対4」。男社会で女性が占める割合が40%になって初めて男女の分け隔てが消え、個人の資質や能力が正当に評価されます。

別のいい方をすれば、女性が4割を占めれば「女はめんどくさい」と男女の違いを嘆く男性が激減する一方で、女性は「個」の本当の力が試されることになるというわけです。

河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輪に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。
(写真=iStock.com)
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