作家を目指して会社を辞めたが、結局水商売
元アパレル社員のキャバクラボーイ矢野寛太さん(仮名)

学生時代は、有名私立大学の文学部で文芸批評の勉強に取り組む、比較的真面目な学生でした。

アルバイトをしていた居酒屋で接客の楽しさに目覚め、卒業後はアパレルブランドの販売員として就職します。これが間違いの始まりでした。

高級百貨店に入っている店舗に配属されたのですが、バーゲンなどの繁忙期以外は連日閑古鳥。それなのに、ただでさえ少ないお客さんが来店しても、入社年次の早い順に接客する権利があるというシステムでした。個人の目標販売金額が設定されているにもかかわらず、新人は接客さえできません。矛盾した環境に毎日悩んでいました。

給与の面でも不満はありました。新人は試用期間ということで時給1000円。フルで働いても額面で15万円ほどです。アパレル販売員ですから、売り場に立つにも自社ブランドの服を購入して着用しなくてはなりません。それも自腹です。さらに社会保険料などを引いたら僅かな額しか残りません。

また、直属の上司がくせ者で、新入社員の査定が各店舗に任されていることにかこつけて、退社するまでずっと「試用期間」としてこき使われました。他店舗の同期たちはとっくに正規の給与を貰っているのに、こんな扱いを受けたのはこたえましたね。今思うとブラック企業なのですが、世間知らずな私は、自分が悪いのではないか? と憂鬱な日々を送っていました。

そんな中、たまたま卒業した大学のホームページを見ていたら、大学院の受験出願まで残り1カ月という一文を目にして、これだ、と思いました。ぼんやりと抱いていた文芸批評の研究を通じて、作家として本を出したいという夢もありましたが、会社に嫌気が差していたこともあり、半ば勢いで出願し、脱サラすることになりました。