「終わった」自分を受け入れられない

「定年って生前葬だな」。小説『終わった人』は、東大法学部卒の元銀行員・田代壮介の衝撃的な独白から始まる。シニア世代から共感を得、現役世代を戦慄させたベストセラー「定年小説」執筆のきっかけを、内館牧子氏はこう語る。

「まわりが定年を迎えた頃、急にクラス会やサークルの集まりが増えたんです。そこでは、かつてのエリートたちが暇になって『終わって』いた。その様子を見て、冒頭のセリフとタイトルが浮かびました」

定年後も社会から必要とされたいし、本当はもっと働きたい。内館氏が「特技のないエリート」とバッサリ斬る壮介は、ジムに通い、大学院受験を目指し、ベンチャー企業に再就職。「終わった」自分を受け入れられず、見苦しいほどに悪戦苦闘する。さらに、片想いにのめり込むものの、相手にされず、娘からも馬鹿にされる。多くの人から「これは私じゃないか」という感想を受け取ったという。

哀愁と希望のあるコメディに生まれ変わった

小説に登場する同年代のフリーランスのイラストレーターも、仕事は減っている。だが、それを受けとめ、若い女と恋もして、仕事人生終盤を楽しんでいるのとは対照的だ。

「現役時代と定年後の落差が激しいから、サラリーマンのエリートは辛い。でも、社会に期待されないのは、何でも好きにできるということ。捉え方次第ですよ」

本作は映画化され、2018年6月9日から全国公開された。

「ドラマの脚本を書いていたときも、私はいつもハッピーエンドにしなかった。だって、人生ってそんなに甘くないから(笑)。でも、中田秀夫監督と素敵な舘ひろしさんのおかげで、哀愁と希望のあるコメディに生まれ変わりました」

内館氏も少しだけ出演しているので、お楽しみに。

内館牧子(うちだて・まきこ)
1948年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、三菱重工業に入社。88年に脚本家デビュー。ドラマ『ひらり』『都合のいい女』『毛利元就』など多数。
(撮影=原 貴彦)
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