シニアが働くことができれば老後不安を減らせる

シンガポールでは働くシニアが増加しています。雇用主は67歳まで継続雇用を申し出る義務があり、65歳以上の労働力率は36%(日本30.2% 2014年)です。日本では継続雇用の際に賃金を大幅にカットされるケースが多いですが、シンガポールではガイドラインがあって大幅な賃金カットは認められていません。

日本では働きながら厚生年金を受け取ろうとすると、その間の年金が減額されることがありますが、シンガポールではそういったことはありません。高齢者が高い収入で働き続けるほど、老後の資金を確保することができ、年金不安を解消できる仕組みになっています。

また、シンガポールでは人口の4割が外国人労働者です。その大半は周辺諸国から来た、建築業、製造業、サービス業(外国人家事労働者など)などに従事する低技術労働者ですが、中間管理職、専門技術者、研究者、弁護士、医師、会計士などの高技術労働者を受け入れる仕組みも用意しており、富裕層や高技術労働者は永住権を取得しやすくなっています。

経済成長には資本、労働力、生産性が必要です。主に富裕層は資本に、高技術労働者は生産性に、低技術労働者は労働力に貢献します。そしてシンガポーリアンの雇用を守るために、中レベルの労働者のビザの支給は制限しています。治安を維持するためルールに従わない外国人は強制送還するという強硬手段もとっています。恣意的ですが、国にとってメリットのある者を選別して、異なる種類のビザを発行しているのです。

日本ではエンジニアの人手不足が深刻化していると言われていますが、シンガポールは優秀なエンジニアを積極的に呼び込み、給与やビザなどの条件面で好待遇を打ち出しています。米シリコンバレーではビザ厳格化から外国人技術者の流出が始まっていますが、賢い国は優秀な人材を海外から集める政策をすすめているのです。

内閣府は毎年20万人の移民を受け入れることで、合計特殊出生率が人口を維持できる水準に回復すれば今後100年間は人口の大幅減を避けられるという試算を出しました(2014年)。しかし、大量の移民の受け入れは国民の反発を呼ぶでしょう。必要な手だては、移民政策よりも、女性や高齢者の活用ではないでしょうか。日本より少子高齢化が深刻にもかかわらず、働き手不足を解消しているシンガポールから学べることはたくさんあるはずです。

日本は2060年までに高齢者1人を1.3人の現役が支えるという不安定な人口構成になるとみられています。「人生100年時代」はよろこばしいことかもしれませんが、時遅しとなる前に、国、企業、個人が一刻も早く対策に取り組む必要があるはずです。

花輪陽子(はなわ・ようこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP認定者
1978年、三重県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業後、外資系投資銀行に入社。退職後、FPとして独立。2015年から生活の拠点をシンガポールに移し、東京とシンガポールでセミナー講師など幅広い活動を行う。日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」2011年度相談員
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