少子高齢化が深刻なシンガポールの知恵
ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。私はテレビや雑誌でコメンテーターの仕事をしていますが、夫の転勤で、2015年に当時1歳の娘を連れてシンガポールに移住しました。シンガポールに住んでみると、日本よりも進んでいて快適で合理的なところが多く驚かされました。
何より驚いたのは、日本より深刻な少子高齢化社会なのに、労働力の確保、金融システムの発達、次世代の人材を作る教育などで、明るい未来を描けていたことです。拙著『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』(講談社+α新書)では、その賢くて合理的な小国の知恵を記しました。ポイントを絞って、その内容をご紹介したいと思います。
日本の2015年の総人口は1億2709万人、生産年齢人口(15~64歳)は7629万人ですが(平成27年国勢調査)、2060年には総人口は9284万人、生産年齢人口は4793万人にまで減少すると予測されています(国立社会保障・人口問題研究所の将来推計)。生産労働人口は実に約4割も減少することになります。「GDP=人口×一人当たりGDP」になるので、一人当たりGDPを向上させていくか、労働力となる人口を増やしていかないとGDPを維持することは厳しいのです。
厚生労働省によると、2018年4月発表の有効求人倍率は1.59倍で、この数年は仕事を探している人よりも、人を探している企業のほうが多い状態が続いています。高齢化社会に伴って労働力がますます不足することは目に見えています。日本人だけですべてをやりくりしようとするのには無理があり、シンガポールのように労働力の重要性をよく理解し、それに合わせた制度設計をする必要があります。具体的には労働力として、女性、高齢者、外国人労働者の活用をすすめることです。
シンガポールの合計特殊出生率は1.25(日本は1.42 2014年)と、日本より少子高齢化が深刻です。しかし女性やシニアが活躍でき、優秀な外国人労働者を確保することで、労働力人口減少の問題を解消しています。
たとえばシンガポールでは、女性が結婚・出産・育児のために労働市場からいったん退出する、いわゆる「M字カーブ」現象は見られません。保育所や外国人家事労働者の支えが充実しているからです。交通システムでは時間差で運賃が変動する混雑緩和政策をとっているため、ベビーカーでの通勤も苦になりません。