都心の暮らしを捨てて家賃の安い郊外に逃げるとき、私は東京で初めて、主体的に何かを選び取ることを学んだという気がしています。はた目には「つらいことから逃げただけ」と映ったかもしれませんが、本当は、そのままズルズルと都心で暮らしたほうが、ラクだったかもしれない、とも思うのです。

「東京は家賃が高いから、ひとりで生きていくのは大変なことだ」というぼんやりしたイメージが、日本中に空気のように存在していますよね。いま振り返ると、私がもしこのまま杉並区に暮らし続けて無一文になっても、東京のせいにしてさっさと田舎に帰ればいいや、という逃げの一手を、心のどこかでキープしておきたかったんですね。

しかし、東京だけど家賃が安い郊外で、ひとり暮らししたのにうまくいかなかったとしたら、失敗の原因は東京ではなく自分にある、と突き付けられることになります。それと向き合わされるのが怖かった。

自分の行動の結果を「東京のせい」にしない

それで、安いアパートを見つけてからも1カ月ほど足踏みしていたのですが、ちょうどシェアハウスのメンバーが少しずつ移り変わり、以前ほど楽しくなくなってきていたことが私の背中を押してくれました。

大原扁理『なるべく働きたくない人のためのお金の話』(百万年書房)

この家、私にとっては、もう7万円も払うほどの価値はなくなってるかも。やっぱりお金がもったいないな。

そう感じた私は、不動産屋のウェブサイトで本格的に部屋探しを始め、2010年12月にめでたく国分寺市のアパートに引っ越すことができました。上京してから初めて、自分の行動の結果を「東京のせい」にせず、自分で引き受けると決めた、小さいながらも記念すべき瞬間です。

もしも上京して、普通に7万円の家賃を払えていたり、東京で実家住まいだったりしたら、何の疑問も持つことなく楽しく暮らして、隠居することなんてなかったかもしれません。だから、これでよかったのだと思います。

失敗したときに、誰かのせいにできるという誘惑は、人生を主体的に生きるということから、自分を遠ざけてしまいます。何が正しくて、何が間違っているのかを、私が背負ってあげまっせ、という人や社会が出てきたら要注意。本当にそれでいいのか、手遅れになる前に、よく考えてみる必要があります。

大原扁理(おおはら・へんり)
1985年、愛知県生まれ。高校卒業後、3年間の引きこもりと海外一人旅を経て上京。東京で隠居生活を送った後、現在は台湾で生活。著書に『20代で隠居 週休5日の快適生活』(K&Bパブリッシャーズ)、『年収90万円で東京ハッピーライフ』(太田出版)がある。ツイッター:@oharahenri
(写真=iStock.com)
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