※本稿は、三戸政和『サラリーマンは300万円で会社を買いなさい』(講談社)の一部を再編集したものです。
ゼロイチ起業は選ばれた人のもの
私は、事業が大成功して有名人になり、メディアの寵児にまつりあげられるような社長を見てきた一方で、目を輝かせて私たちに事業計画を説明し、会社の未来と夢を語り意気揚々として自信に満ち溢れていたはずが、事業が計画通りに進まず、徐々に元気を失い、数年のうちについにはビジネスの表舞台から去っていってしまう社長も数多く見てきました。
ベンチャーキャピタリストという職業は、そうした人の世の諸行無常というものに日常的に接する職業なのです。
一見したところ華やかな業界だと思われがちですが、マイナスの状態に陥った案件を手仕舞う作業は辛いものです。ゼロイチ起業に挫折した社長たちの表情は忘れられません。
それでも、私たちの投資がなければ、成功に至ることができなかった会社は多数あります。そうした新しい成功企業が世の中に羽ばたいていくことを励みに仕事を続けてきました。
私は本心では、強い思いを持ってゼロイチ起業にチャレンジし、新しい事業を生み出そうとする人がどんどん出てきて欲しいと思っています。ベンチャーキャピタルから資金調達し、投資して、さらなる挑戦をして欲しいと願っています。
ただし、ゼロイチ起業には「向き不向き」があります。その能力や準備がない人に、無謀な挑戦をして欲しくはありません。できることなら、すべての人にその能力に見合った舞台で成功し、活躍して欲しいというのが本心です。
くり返しますが、ゼロイチ起業に成功できるのは選ばれた一握りの人だけです。最近でこそ「連続起業家」(シリアルアントレプレナー:新しい会社を次々立ち上げる起業家)という人が出てきましたが、ほとんどの人が起業の初心者。成功でも、失敗でも、起業経験のある人は限られます。まして、「起業して事業を軌道に乗せたのち、売却したことがある」とか、「会社を起業したがうまくいかずに清算した経験がある。そして再び起業にチャレンジする」という連続起業家は、かなり少ないでしょう。
何もないところから新しい事業を生み出し、成長させていくというプロセスは、たとえ30年間会社勤めをして幾多の経験があるというような人でも、初めての体験の連続です。思いもよらない困難が次々と襲いかかります。生半可な経験や体力や知性や人間力や勤勉さでは、とても太刀打ちできません。
堀江貴文というゼロイチ起業家
ゼロイチ起業家で思いつくのは、なんといっても堀江貴文さんです。
堀江さんが大学時代の1996年に起業した、ライブドアの前身であるオン・ザ・エッヂは、当時では最先端のウェブシステム開発を行っていました。日本初のウェブクレジットカード決済のシステム実装や、100万人規模という世界トップレベルのウェブエンターテインメントシステムの実装を行うなど、その技術力の高さで収益を上げ、それをもとにポータルサイトの買収や数々の自社事業を立ち上げ、2000年に上場。その後、事業規模を急速に拡大していきました。