期待にたがわぬ素晴らしい説明

実際、国務省全体が上を下への大騒ぎになった。予想どおりだ。それが狙いだったのだから。

その日がついにやってきた。大統領の一行が会議室に入り、大きな会議用テーブルの片側に座る。1983年にバージニア州ウィリアムズバーグで開催された先進7カ国(G7)サミットで使われた、由緒正しい机だ。各国首脳が座った位置には、それぞれ、座った人の名前を刻んだプレートが取り付けられている。

私は歓迎の意を述べると、国務省幹部に続けて担当者を紹介し、あとを彼らに任せた。もちろん、私の意図は大統領に伝えて了承をとってある。ふたりの担当者は、期待をたがえないすばらしい説明をしてくれた。メキシコ訪問に先立ち、大統領が知っておくべきことはすべて説明。大統領からの鋭い質問に対しても明確な回答を返す。説明が終わると、大統領は大満足で、にっこり笑いながら出席者と握手し、大勢の補佐官を引きつれて帰っていかれた。このあと、担当者ふたりは電話に走り、家に連絡したことだろう。その周りには、どうだったかと興味津々の同僚が事務所中から集まっていたはずだ。

最大の報酬はこのあとだ。

「すごかったぞ! 国務長官はわれわれを信頼してくれている。大統領もだ」

こういう話が光のスピードで国務省内を駆けめぐったのだ。それから10年間で、何十人もの国務省関係者からこの話を聞くことになったほどだ。

新しいチームづくりは「信じること」から始めよ

新しい組織に着任したら、信じてはならない確たる証拠がないかぎり、まずは、そこにいる人を信じるべきだと私は考えている。こちらが信頼すれば、相手も信頼を返してくれる。互いの信頼は時間がたつほど深くなっていく。私がうまくやれるようにと一生懸命に働いてくれる。恥をかかせないようにと私を守ってくれる。部下が面倒をみてくれるのだ。

なお、信頼関係の醸成など簡単だと言いたいわけではない。大統領への概要説明がめちゃくちゃになった場合は、思ってもいなかったほど深刻な問題があることを意味しており、思いきった対策をとることになったかもしれない。

ただ、私は、新しい組織に着任するときトラブルを想定しないことにしている。前任のリーダーも優秀でできるかぎりのことをしたと信じて着任するのだ。肩をいからせ、刃物を振りまわしながら登場するのはよくないと思う。相手に不安と恐怖心を与え、警戒されるだけだからだ。刀を振りまわす人物は病原菌と認定され、官僚白血球に袋だたきにされるのだ。