【松尾】一般に消費税は逆進性が高いとされていて、お金持ちにとって負担は軽いけど、貧しい人にとっては重い負担になるとも言われています。所得全体に対する消費の割合(平均消費性向)が、所得が低い人ほど高いので、貧しい人ほど税率が高いのと同じような効果を持ってしまうんです。

だから、消費税というのは決して「平等な負担」ではないんですよね。かつての民主党・民進党が主張していた「消費増税をして福祉や教育無償化に回そう」というようなやり方は、再分配政策としても決して筋のいい政策ではありません。安倍政権も同じようなことを言って、消費増税が進められようとしていますけどね。

そもそも「機会」が世代的に平等ではない

【北田】おっしゃるとおり、不況で苦しんでいる貧しい人たちが一番割を食うわけですから、消費増税というのはまったく「平等な負担」ではないんですよね。逆進性の強い税です。脱成長論、成熟社会論の人たちも「みんな平等に貧しく」って簡単に言うじゃないですか。でも、「平等」というのは本当はきわめて難しい概念です。

消費増税がたとえば全部社会保障に充てられ(社会保障費が)「増加」したとして、それで社会保障の枠組みでギリギリの生活をしている人たちの「増税分」をカバーできるか。下手をすると、貧困層は微増、中間層の需要を冷やす、という本末転倒な結果ともなりかねない。アマルティア・セン(インドのノーベル賞経済学者)の言葉で言えば「何の平等か」が問われなくてはなりません。

ロスジェネなどの、デフレ不況によって苦しめられた世代は、職業キャリアの出発点において不平等な状態に置かれています。そもそも「機会」が世代的に平等ではない。だから、本当に「平等」を言いたいんだったら、まずはロスジェネへの世代間再分配―しかも、高度経済成長のもとで利益を受けた団塊世代など年長世代からの再分配が必要になるはずなんですよ。年長世代の左派が率先して若者に「縮め」などと言っている場合ではない

「平等に貧しく」という経済的余裕はない

でも、その団塊世代にしても、独居老人世帯や貧困世帯などの「これ以上むしりとられたら死ぬしかない」という人たちは山のようにいるのであって、いまの日本は総体としてぜんぜん「豊かな社会」ではないですよね。GDP比の貯蓄率はOECD諸国の中でもイタリアとともに低い水準にありますし、団塊世代の貯蓄残高はたしかに国内的に見れば相対的に高いと言えなくもないですけど、それは貯蓄・資産形成期が長いのだから当たり前なんですよ。しかし、それは正規分布のような形をとっておらず、所得と同様に単に「持っている人が持っている」というだけです。これらの人びとに「平等に貧しく」なるような経済的な余裕などありません。

おそらく、日本の左派には「そうは言っても、日本社会はまだそこそこ豊かだ」「経済などというのは、成長がなくても、そんなにひどくはならないだろう」という幻想があるんだと思います。でも、それはそう言っている当人がそこそこ豊かなだけなのではないか。「何の平等か」を本気で考えていないとしか言いようがない。