テニスのウィリアムズ姉妹のライバル意識

我々は常に他人と自分とを比較しているが、比較にもさまざまあって、いくつかの比較はほかのものよりも重要である。体重増加の研究では、異性の友人よりも同性の友人のほうが互いの体重増加に影響を与えることがわかっている。相手が自分に似ているほど、比較本能はフル稼働するのだ。

アダム・ガリンスキー、モーリス・シュヴァイツァー『競争と協調のレッスン コロンビア×ウォートン流 組織を生き抜く行動心理学』(TAC出版)

これこそ、デイヴィッド・ミリバンドが弟に選挙で負けたことに耐えられなかった理由だ。たしかに、きょうだいほど共通点のある相手はめったにいない。両親が同じなら遺伝子も同じ、育った環境もたいていは同じだ。デイヴィッドとエドの場合、目指すものも同じだった。デイヴィッドとエドはともにオックスフォード大学で学び、国会議員になった。ともに労働党党首の座をかけて争い、イギリス首相の有力候補だった。これほど重みのある共通点はない。そして望んだ結果が得られなかったことに、デイヴィッドは耐えられないほどの敗北感を感じた。

ミリバンド兄弟の場合、互いの共通点がライバル関係をより熾烈なものにし、あげくの果てにデイヴィッドはキャリアを台なしにしてしまった。だが、きょうだい間の競争意識が互いの意欲をかき立て、新たな高みに引き上げてくれることもある。ここでもう一組のきょうだい、ウィリアムズ姉妹の例を見てみよう。ビーナス・ウィリアムズとセリーナ・ウィリアムズは、10年以上にわたり女子テニス界に君臨し続けている。姉妹はそれぞれ別の時期に世界ランク1位になっている。だが、二人がプロになった当初、評論家に最も称賛され、コートで最も恐れられたのは、姉のビーナスのほうだった。

妹セリーナは当時のことを「いつも負け犬のように感じていた」と振り返っている。けれどもセリーナは二番手の座に甘んじるのではなく、そこから刺激を受けた。「ビーナスは大スターだった。子どもの頃から注目されるのはいつもビーナスだったわ。とにかく素晴らしいプレーヤーだったから、私も姉のようになりたいと思った。姉のように強くもうまくもない妹だったことが、今の私が試合をするときの勇気とファイトの源になっているの」

現在、女子プロテニス界のトップに君臨しているのは、姉を追い越したセリーナのほうだ。二人が決勝戦で戦った24試合では、ビーナスの10勝に対してセリーナは14勝をあげている。また、グランドスラムのタイトルを手にした回数は、セリーナが18回、ビーナスが7回だ。本書の執筆時点で、セリーナは世界ランク1位で、ビーナスは18位だ。セリーナを“負け犬”と思う人は誰もいない。

競争と協調は一緒に存在できる

競争と協調は両立できる。その証拠に、ウィリアムズ姉妹は、ライバル心を脇に置いて、二人で力を合わせて成果を上げられるということを見事に証明している。姉妹は女子ダブルスの決勝戦で21勝1敗という目覚ましい成績を上げており、そのなかには2000年、2008年、2012年の三度のオリンピックの金メダルも含まれる。

タイム誌のコラムニスト、ジョシュ・サンバーンはこう述べている。「ウィリアムズ姉妹のライバル関係は、他に類を見ない卓越したものだ。史上最も偉大なテニスプレーヤーが同じ家族から生まれ、同時代にプレーしている。コートでは火花を散らして激しく争うが、コートを離れるとひじょうに仲がいい」ウィリアムズ姉妹の関係は、きょうだいが親友にもなれ、そして同時に最も激しいライバルになれることを裏づけている。

アダム・ガリンスキー
コロンビア大学ビジネススクール教授。専攻は社会心理学。プリンストン大学で博士号を取得
モーリス・シュヴァイツァー
ペンシルベニア大学ウォートン校教授。専攻は交渉学。ペンシルベニア大学ウォートン校で博士号を取得
(写真=iStock.com)
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