そして第三の特性は、人は他者との比較によって度を越した意欲を持つ場合があるということだ。その結果、ズルをしたり、不正な手段でライバルを妨害したり、とんでもない危険を冒してまで他人を蹴落とそうとしてしまう。

皮肉なことに、密接な協力関係にある相手ほど、比較の対象として強く意識するものだ。自分を友だちと比較するのはよくあることだが、その比較が友だちを敵に変えてしまうことがある。

なぜ妊婦の夫も体重が増えてしまうのか

我々は無意識のうちに周囲の人たちに目を向ける。自分が社会のなかでどれくらいの位置にいるかを、我々は他者を基準にして判断するからだ。

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体重を例にとってみよう。自分は太りすぎだろうか、それともちょうどいい体重だろうか。この疑問に答えるために、我々は(意識的にかどうかは別として)友人の体重に目を向ける。ハーバード大学医学大学院の研究者たちが、32年以上にわたって1万2067人の体重を測定し続けたところ、友人の体重が増えた場合、本人の体重が増える確率は57%アップすることがわかった。なぜそんなことが起きるのか。それは、友人ほど太っていなければ、2個目のドーナツに手を伸ばしてもかまわないと脳が教えるからだ。友人が太っているなら、自分の体重が増えてもさほど問題ないと思えるのだ。

社会的比較が体重の増加に役割を果たす例で、とりわけ注目に値するのが妊娠だ。女性の身体は妊娠すると劇的な変化を遂げる。一般的に妊娠すると体重が増える。二人分食べるようになるのだから、これは驚くことでも何でもない。だが、ひじょうに興味深いのは、妊娠した妻を持つ男性の身体に起きる変化だ。

父親になる男性の身体が変化することに、生物学的な理由はない。もちろん、夫の貢献なしに妊娠はないわけだが、お腹に子どもを宿す妻とは違い、夫の身体が変化する必要はまったくないはずだ。

夫は体重を維持しようという意欲を徐々になくしていく

ところが実際には、妊娠した妻を持つ夫はかなり体重が増えるという研究結果が出ている。ある研究では、じつに25%の夫が、太った身体に合わせるため自分も“妊夫服”を買わなければならなかったと述べている。

これには社会的比較が大きく関わっていると考えられる。それはなぜか。妊娠した妻の体重が少しずつ増えてくるにつれて、夫は体重を維持しようという意欲を徐々になくしていく。そして、知らぬ間に体重が増えてくるのだ。極端な例では、夫に妻と同じような妊娠の兆候が表れることもある。こういった例は実際にめずらしくなく、擬娩(クーバード)症候群というれっきとした診断名もあるほどだ。

体重であれ、給料であれ、キッチンであれ、他人と比べることで自分がどれくらいの位置にいるかを確認できる。しかし、ただ比べればいいというものではなく、誰と比べるかが問題だ。がんばろうという気持ちになるか、ただ落ち込むだけかは、比べる相手によって決まるといってもいい。