4000円以下と3万円以上で中間が空白だった

もちろん、何でも専門ブランド化すればよいわけではない。多くのブランドのメインとなるアイテムのサブとして必ず置かれているアイテム。こうしたアイテムであれば、そこだけを切り出しても市場規模は相当に大きい。この市場規模についての条件を外した商材を切り出しても、成功の見通しは低い。バレエシューズは、この成功の条件に当てはまるアイテムだったのである。

沼部氏が調べたところ、従前の国内市場では、バレエシューズは4000円以下のクラスの商品が主流であり、質感に課題があった。唯一「レペット」という、フランスのバレエシューズの高級専門ブランドが店舗網を全国に広げていたが、3~4万円というバレエシューズとしてはハイエンドなゾーンでの商品展開だった。つまり低価格帯と高価格帯のあいだが空白地帯となっている状況だったのだ。

専門ブランドの強みは、経営資源の集中投下から生まれる。

ライフスタイル提案型の総合ブランドが全盛だった1990年代の後半。この時期からクロシェは、つくり込んだキラーアイテム1点で勝負するアプローチで成功をおさめてきた。

沼部氏は、「小さなブランドが百貨を扱おうとすると、パワーが分散してしまう」と語る。だから単品に集中する。手がける商品を絞り込むことで、企画の完成度を高め、消費者に絶対に欲しいと思ってもらえる商品を生み出す。そうすれば、ロットあたりの発注量を増やすことができ、その結果として、いい素材が使えるようになり、生産工場への細かな改良の依頼も行いやすくなる。さらに、商品を入れるバッグなどの付属品にも凝ることができる。このレベルまでくれば、小さなブランドが大手ブランドに十分に対抗できるようになる。

沼部氏のファルファーレは、バレエシューズに企画を集中することで、ハイエンドのブランドにも引けをとらない見た目、履き心地、そして品質を実現し、一方で市場の空白ゾーンを見すえて、リーズナブルな8800円の価格(当時)で商品を投入した。

低反発インソールの履き心地など、完成度が高く、常時20色以上のカラーバリエーションが用意されているバレエシューズである。単品であっても、これを定価で売り切ることができれば、小さな会社には十分な利益がもたらされる。

ファルファーレが常設店舗をあえて作らない理由

さらに収益性を高めるためには、セールに頼らない販売を進めるとともに、販売コストの削減が欠かせない。

この2つの課題を同時達成するべく、沼部氏はポップアップストアを活用している。

ポップアップストアとは、商業施設の一角、あるいはイベント・スペースなどに期間限定で開設される店舗である。このポッと現れる店舗は、低コストのプロモーションとして、あるいはオンライン・ショップがリアルの体験を提供する場として、英米を中心に2000年代からブームとなっている。デジタルと実世界の融合が進むなかで出現している新しい現象といえる。日本でもポップアップストアの活用は拡大傾向にある。

とはいえ、多くの企業が試みるポップアップストアの活用は、プロモーションであったり、リアル体験の提供であったりと、メインの販売の補完であった。しかし沼部氏は、ファルファーレの出店においては、恒常的な店舗は設けない方針をとっている。

ファルファーレには常設店舗はない。そのかわりにファルファーレは、1週間単位でポップアップストアを全国の各所で次々に出店していく。その数は年間で100以上にのぼる。これで年間8万足という販売の根幹を確保する。

ポップアップストアは内装費や設備費が低減でき、出店コストの削減に貢献するわけだが、それだけではない。ファルファーレのような専門ブランドの場合、ポップアップストアの活用は、購買意欲の刺激という点でも重要だという。

服でも、靴でも、何でもそうだ。アマゾンやゾゾタウンなどにアクセスすれば、いつでも、どこでも膨大な選択肢が用意されている。今はそんな時代である。

商業施設を回遊し、気に入った商品に出会うと、「今、ここで買っておかなければ」と思いたつ。こうした買い回りスタイルから生まれる消費への渇望感は、いまの時代にあっては、弱くなる一方である。

「ファルファーレ」のウェブサイトにある催事予定。ほぼ毎週、全国の百貨店で展開している。