タレントの“CM責任”と同じ

今回、昭恵さんの名前が最大限に利用された。安倍さんや昭恵さんは、自分たちは被害者だという感覚なのかもしれない。しかしその認識も改めなければならない。

メディアに顔を出して仕事をしている者は、その顔を利用された場合に全く責任を負わないかと言えばそんな甘いもんじゃない。タレントは、ここは最も注意しなければならないところなんだよね。

タレントがCMや広告に出演して、その業者が不適正なことをやった場合に、そのタレントまで非難を浴びるよね。法的に違法責任を問われなくても、そのことによって以後のタレント活動ができなくなったタレントはたくさんいる。テレビCMだと審査が結構厳しいけど、ネット広告だと審査なんてないようなもんだから、広告主がどんな事業者なのかほんと分からないところが多い。

僕は弁護士なので、弁護士としてどこかの事業者の広告物に名前を出して、その事業者の営業を保証しているように疑われることも避けなければならない。

世間から知られている者は、自らは違法不正なことをしていなくても、名前の利用を認めたときに一定の責任を負うのは、民間では当然のことだ。ましてや一定の信用力がある者なら、なおさらだ。もちろん名前の利用を承諾していなかった場合には別だけど。

昭恵さんは、首相夫人だ。破格の信用力があるし、日本のどの役所も一定気を遣うのは当然だろう。ゆえに自らの名前を利用させるということには最大限の注意を払わなければならないし、実際に利用されて疑われるような事態に陥ったときには、ある程度の責任を負わされても仕方がない。

昭恵さんは、森友学園に名誉校長という形で名前の利用を認めてしまった。それまでにも籠池氏との関係も深くし、名前を利用されるような状況にもなってしまった。今回のように、その森友学園が昭恵さんの名前を最大限に活用し、実際に財務省はスーパー・スペシャル例外・異例・根拠不十分な杜撰な契約を行って森友学園に大幅値引きで土地を譲っているという状況においては、昭恵さんや安倍さんは、名前を利用されてそのことが一定役所に影響したかもしれないことの不注意を素直に謝る、そして今後昭恵さん自身の活動において変に名前を利用されないように注意することを誓う、それくらいの責任は果たす必要があるし、そのことで十分だと思う。何も問題はない! と強弁するのは違う。もちろん、違法不正がなかったことが前提だし、何よりも今回の土地取引の例外性・異例性・根拠不明の杜撰さの問題を明らかにして以後それらを改める対策を講じなければならない。この対策は既に発表されているけど、それで十分かどうかをまさに国会で議論し確認する必要がある。

そもそも証拠を廃棄した側が偉そうに言えるのか

安倍政権は、証拠を廃棄した側である。裁判の中での証拠ルールでは、証拠を廃棄した側はそれなりのペナルティーを受ける。疑惑を受けている側が関連する証拠を廃棄したのであれば、疑惑は存在したものと扱われても仕方がない。そうでないと、疑惑を受けた場合には、徹底して証拠を廃棄した方が有利になってしまう。

疑惑を受けて証拠を廃棄した側が、身の潔白を主張しても普通は通らない。その際、疑惑を追及する相手側に疑惑を裏付ける証拠を出せ! と迫るのも通らない。だって疑惑の追及を受ける側がその証拠を廃棄しちゃったんだから。

安倍さん大応援団のメディア出演者も、野党が違法不正を言うならその証拠を出せ! と言う人が多い。それは証拠法の理解が足りないね。財務省が証拠を徹底廃棄しちゃったんだから、もはや証拠を出せ! という主張や、証拠のあるなしを議論しても無意味なんだよ。

疑惑を受けている側が、自分に不利益になる(=疑惑を裏付けることに繋がる)証拠を廃棄した場合には、その疑惑の存在を推定するのが証拠ルールだ。疑惑を裏付けることに繋がる証拠は廃棄されたのだから、追及側がそれら証拠を獲得する機会は奪われた。だから追及する側が証拠を出せなくても仕方がない。これが証拠を廃棄した側が受けるペナルティーだ。

笑っちゃうのは与党の提灯持ち議員たちが、書き換え前の公文書の記載をもって、この記載からは安倍さんや、昭恵さんが関与した形跡がないことは明らかだ! と言っていること。でも大量の証拠を財務省が廃棄した事実には知らん顔。大量に廃棄された証拠の中に、もしかすると安倍さん、昭恵さんの関与の事実が記載されているものがあったかもしれない。しかし、それらは全て廃棄されてしまったのだから藪の中だ。証拠を出す、出さない、それに今残っている証拠を見ればどうなのか、という議論は、証拠が廃棄されてしまった今の状況では無意味な議論だ。

安倍さんも、与党の提灯持ち議員の主張に乗っかって、今存在する書き換え前の文書から自分の身の潔白を主張するけど、それは止めた方がいい。証拠法の理解が不十分だと思われてしまう。

さらに太田理財局長を始めとする財務省も、「適正な取引だった」という強弁はもう止めた方がいい。本件土地取引の適正性については、会計検査院の報告書をまずベースにすべきだ。あれだけ嘘をつきまくっていた財務省が、今何を言おうが信じられない。太田氏は口調は丁寧だが、言っている内容は佐川氏が言っていたこととほぼ同じだ。

不適切な取引だったことを認めてしまうと、じゃあなぜ不適切な取引をやったのか、それは安倍さん・安倍政権への配慮じゃないか、と疑われてしまう。財務省は不適切な取引はしないということを堅持するための組織防衛の視点があったとしても、安倍さん・安倍政権への配慮を疑われないようにしたいとの思いもあり、ゆえに財務省としては「適切な取引」を死守したいのだろう。