佐川氏の答弁に合わせた文書書き換えは安倍政権への忖度だ

3月11日(日)時点の情報でここまで書いたが、その後、衝撃的な事実がどんどん明らかになってきた。

麻生太郎財務大臣は、辞任はしない考えを示した。そして責任は佐川宣寿・前国税庁長官(元財務省理財局長)にある、と。佐川氏が辞任するときまで、佐川氏は良い人材だ、適材適所だと言っていたのに。事実調査の大号令をかけなかったのは麻生財務大臣だ。

財務省は、理財局単独の行為であり、安倍政権への忖度はなかったという認識を示した。ここまで政治に対して忖度しまくる組織であるのに、まだこのように言うか。財務省は、佐川氏の国会答弁に合わせる形で文書の書き換えが行われたという認識。佐川氏に責任の全てを押し付ける腹であろう。

しかし、今回、消された事実の中には、佐川氏の答弁に整合させたとは思えないものもたくさんある。特に政治家の名前だ。

安倍さん、麻生さんの名前は、もともと森友学園の概要説明の中で日本会議国会議員懇談会の副会長や特別顧問であることが記されていただけである。安倍さん、麻生さんが財務省に不当な働きかけをしたような事実が記載されていたわけではない。そうであれば、政治家からの不当な働きかけはなかったという佐川氏の答弁に合わせるためだけに、このような形でしか名前が出ていない安倍さん、麻生さんの名前をわざわざ消す必要はない。そのままにしていても本来何も問題はない。

しかし財務省はスーパー忖度して、安倍さん麻生さんと森友学園との関係が一切疑われないように、安倍さん麻生さんの名前を完全消去したのだ。

また、鴻池祥肇参議院議員サイドが2013年8月、森友学園の件で陳情していることが消されている。しかし不当な働きかけをしたわけではない。そうであれば佐川氏の答弁と整合させるために消す必要はない。鴻池氏は、麻生派の有力議員である。ということは麻生さんへの忖度であろう。

これら安倍さん、麻生さん、鴻池さんの名前の消去は、まさに安倍政権への忖度そのものだ。

さらに消された政治家の名前には、中山成彬衆議院議員、杉田水脈衆議院議員、三木圭恵元衆議院議員、上西小百合前衆議院議員もある。しかし、これらの者は森友学園問題で特段何らかのキーパーソンになっているわけではないし、その記載も「学園に来訪した」というどうでもいい事実である。ゆえに佐川氏の答弁に整合させるために、その者たちの名前をわざわざ消す必要もない。

にもかかわらず、なぜあえてその名前を消したのか。それは後に続く安倍さんの奥さんである昭恵さんの来訪記録を消すためである。つまり昭恵さんの来訪記録だけを消して、その他上記4名の来訪記録を残してしまうと、昭恵さんの来訪記録だけが記載されていないことがかえって不審に思われる。ゆえに上記4名の人物の名前とともに昭恵さんの名前を一括で消したのである。すなわち、佐川氏の答弁に整合させるために消したのではない。それは、昭恵さんの名前をとにかく消すために、一括で消したのであり、これは2017年2月17日の「私や私の妻が関係していたなら私は総理大臣と国会議員を辞める」という安倍さんの発言を忖度したにほかならない。

そして書き換え前の文書の2014年4月28日の欄では、森友学園元理事長の籠池泰典氏側が「本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから、前に進めて下さい。』とのお言葉をいただいた」と発言した、と記載。その上で、「森友学園籠池理事長と夫人が現地の前で写っている写真を提示」とも付け加えられていたが、この記述が削除された。

スーパー忖度の原因はズバリ安倍さんが「辞める」と言い切ったこと

まさに森友学園問題の核心部分である。

森友学園問題は、首相夫人の昭恵さんが学園と関係が深く、その後名誉校長に就いたことが、土地の大幅値引きに影響したのではないかというものであった。

安倍さんは森友学園問題が浮上した直後の2017年2月に「私や妻が関係していたなら私は総理大臣と国会議員を辞める」と国会で言い切った。この安倍さんの発言を受けて、財務省がスーパー忖度し、この昭恵さんの名前が出てくる籠池氏の発言や昭恵さんの写真提示の記述を削除したとしか考えられない。

佐川氏の森友学園問題発覚当初(2017年2月)の答弁は、「適正な価格で学園に売却した」(2月24日)、「国会議員などの不当な働きかけは一切ない」(同日)、「処分は法令に基づき適正にやっている」(同日)「価格についてこちらから提示したこともないし、先方からいくらで買いたいといった希望もない」(3月15日)というものである。佐川氏の答弁と整合させるために削除したというのであれば、これら答弁に関連する記述を削除すればよく、昭恵さんに関する記述を削除する必要も理由もない。

佐川氏の答弁と整合させるために削除した部分もあるだろうが、安倍さんの発言と整合させるために削除したものもある。にもかかわらず、この期に及んで安倍政権と財務省は、佐川氏の答弁に整合させるためだけに削除が行われたのであり、政権への忖度はない、と言い訳する。佐川氏の答弁に整合させるためだけなら、昭恵さんの名前をわざわざ消す必要はないのだ。

そもそも佐川氏が後に客観的な事実と整合しなくなり、公文書の書き換えまでしなければならなくなるような答弁を、なぜ当初にやったのか。局長クラスの国会答弁で、しかも国会で追及されることが分かっている森友学園問題に関する答弁は、幹部級のメンバーも含めた答弁調整会議で答弁内容や答弁方針を決める。問題が重要であれば、事務次官や大臣、それこそ首相もその答弁調整会議に参加する。このような答弁調整会議の仕組みがあるにもかかわらず、佐川氏たちは何の準備もせずに国会答弁を行い、その佐川氏の間違った答弁に合わせるためだけに公文書の書き換えが行われたというのであろうか。

そんなことはない。財務省という抜群に事務処理能力に長けた組織である。佐川氏が国会答弁をするにあたって、本件土地の取引経緯は十分に確認しているはずである。そして法執行のプロである佐川氏たちであれば、今回の土地取引は、違法不正がなかったにせよ、会計検査院の報告書(2017年11月)に指摘されているように前例のない、異例づくめの特例的な契約であることは十分に認識していたはずである。

前例を究極に重んじる財務省が、本省も関与しながら、なぜ異例・特例の契約を行ったのか。籠池氏が「うるさ型」の人物で、早く土地処分を完了したかったという役所の気分もあったであろう。しかし籠池氏は、財務省との交渉において昭恵さんの名前をちらつかせており、また学園の名誉校長に就任した昭恵さん付きの秘書が土地取引に関して直接財務省に問い合わせるようになった。このような状況下では、財務省の頭に、強い政治力を発揮している安倍政権の顔は全くちらつかなかったと断言することはできないだろう。

財務省は幹部級の答弁調整会議でこのような事実を把握した上で、法令に基づいて適正な取引だったという答弁方針を決定した。財務省は間違ったことは絶対にしないというエリート集団が陥りがちな無謬性を死守するためという側面もあるだろうが、安倍さんの「私や妻が関係していたなら総理大臣と国会議員を辞める」という発言を忖度したことも間違いない。