「日本のことについては幅広いテーマに関心を寄せてはくれますが、日本のことを話題にすれば何でもウケるわけではありません。外国人、特に欧米人の皆さんは、笑いのツボも違うんですよね。でも、私がガイド中に多用している“絶対にウケる”ネタはあります」

ウォシュレットは、きちんと説明しない

なかでも、新しい日本特有のカルチャーは引きが強いという。先進国でもほぼ普及していない「ウォシュレット」の話題はいじりがいがある。

「機種によっては英語表記がないため、使い方がわからず困る人が多いんですが、『使い方がわからなくても大丈夫。どれでもボタンを押したら、何かが始まるから』なんて説明をします」

そんな大雑把な発言に呆れて、みんな噴き出してしまうそうだ。近年、海外でも知名度が急上昇しているメイドカフェは、日本のサブカルチャーやオタク文化を語るときに恰好のネタになる。ツアー同行中、秋葉原をバスで通過する際に井上さんが「コスプレした女の子が『ご主人さま』と出迎えてくれて……」と概要を説明するだけで車内は沸き立っていた。

皇居の池のほとりで、皇室の歴史に耳を傾けるツアー客。

一方で、伝統的なこと、歴史に関する話も人気がある。日本人にとっても多少謎めいている「皇室」に興味を持つ外国人は多いようで、井上さんはツアーの最中に、「皇室で男性の後継者がいない場合はどうなるんだ?」とよく質問されるとか。答えるために、天皇家の長い歴史を要約して話すそうだが、そんなふうに展開できるのは知識があればこそ。外国人を相手に話をするなら、日本のことを勉強して話せるようにしておくのは鉄則。自国のことなのに聞かれても答えられないようでは、かっこうがつかないだろう。

日本の名所ネタは幅広い層に支持される。なかでも圧倒的に盛りあがるのが富士山。最近は噴火を危ぶむニュースも流れるが、井上さんの場合はそれをうまく利用したこんなネタも。

「まずは活火山だという事実を簡潔に語り、『次の噴火は30年後か、いや明日かも!?』と煽る。それから『ところで富士山に行く人はいますか?』と尋ねます。YESの声があがったら、すかさず“good luck!”」

そのひと言で締めれば、緊張がゆるんでどっと笑いが起こるとか。シリアスな話には、「和めるオチをつけることが大切」とのアドバイス。