しかし今、基地局をつくるのは、決して簡単ではない。ひとつは場所の問題である。地方はまだしも都市部のビルの上は、既存のキャリアが置けるところにアンテナを置いて、もう新たに置く場所がないような状態だ。

そして設営の問題も残る。3大キャリアは、18年度末までに5Gの免許が付与されてからオリンピックまでの短期間で、都内における環境を整えようとしている。そのため、国内の電設会社は、人員やスケジュールが早くも押さえられてしまっている。もし基地局となる場所が見つかって、資金があったとしても、設営する人を確保できない、という事態は起こりうるだろう。

そのようなネットワークを拡大しにくい状況で考えられる事業展開は、MVNOとMNOのハイブリッド方式である。現在、楽天モバイルはドコモの周波数を借りて、MVNOとしてサービスを提供している。そして設立する新会社ではMNOとして通信事業を始める。この2つの周波数帯を、ひとつのSIMに書き込む、もしくは2枚のSIMが使える端末を利用すれば、1台で両方を使うことが技術的に可能だ。そうすれば当面自前の基地局が少なくても、通信には困らないだろう。

とはいえ、ドコモがハイブリッド方式を認めるかどうかはわからない。莫大な投資をして、時間をかけてネットワークを築いてきたMNOが、設備を持たない事業者に対し、接続料と引き換えにネットワークの利用を許可しているのがMVNOである。もし楽天がMNOとして少しばかりの設備投資をして、困ったら他社の周波数に頼るのは、クリームスキミング(おいしいところ取り)でしかないからだ。

関係者の憶測は「秘策があるはず」

総務省が楽天に周波数を割り当てることになれば、イー・アクセス以来、13年ぶりの新規参入になる。そのイー・アクセスは契約数を400万件まで伸ばしたが、12年、ソフトバンクに買収された。携帯事業の新規参入には、厚い壁が立ちはだかる。

しかし、である。ここで指摘したようなことを、三木谷浩史社長がわかっていないはずがない。「三木谷社長のことだから、何か秘策があるはずだ」と想像を膨らませている関係者は多い。

もし楽天が「3大キャリアの協調的寡占」と言われている現状を打ち破ることができたら、消費者の利益となり、きわめて理想的である。三木谷社長の突破力が、市場に変化をもたらしてくれることを期待したい。

北 俊一(きた・しゅんいち)
野村総合研究所 プリンシパル
1965年、神奈川県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。90年、野村総合研究所に入社。情報通信関連領域における調査・コンサルティング業務に従事。専門は、競争戦略、事業戦略、マーケティング戦略立案および情報通信政策策定支援。
(構成=吉田彩乃 写真=iStock.com)
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