楽天は「スピード」と「目標達成」を企業文化としています。実現のためにはどんな行動様式が必要なのでしょうか。30代で楽天の米国事業「Rakuten.com」の社長を務めた小林史生氏は、「目標数値に対する進捗を、3つの視点で分析することを徹底していた」といいます。その具体的なやり方とは――。

※本稿は、小林史生『楽天で学んだ「絶対目標達成」7つの法則』(日本実業出版社)の第6章<「達成する仕組み」をつくれば距離が縮まる>の一部を再編集したものです。

三木谷社長の朝は「日報チェック」から始まる

三木谷浩史会長兼社長をはじめとする楽天の経営陣は、毎朝、全事業のパフォーマンスを「Daily KPI Report」という日報で共有しています。

私が楽天に在籍していた当時は、毎朝、各事業部から送られてきた「Daily KPI Report」を、社長室でプリントアウトし、三木谷社長に届けていました。ページ数はA4用紙で100ページ以上。楽天市場のレポートだけでも20ページ以上はあったと思います。

小林史生『楽天で学んだ「絶対目標達成」7つの法則』(日本実業出版社)

そこには、昨日、当月累計の流通総額(楽天市場での取り扱いの合計)から、各ジャンルの流通総額、マーケティング関連の部署では、新規顧客、既存顧客、楽天スーパーポイントの利用状況等、さまざまな指標が含まれていました。それぞれが日次目標に対してどうか、昨年対比でどうかなどが記載されています。この日報は本当に圧巻でした。

三木谷社長の1日は、毎朝その日報のチェックから始まっているようです。しかもすごいことに、全事業の数字に目を通されているというのです。それでおかしなところがあれば、どんどん指示を出していく、という超人的な動きをされていたようです。

私も初めてグルメ事業部長になったとき、翌日の朝、会社への通勤中にグルメ事業部のこの1週間の数字はどうなっているんだ? とお叱りの連絡をいただいた覚えがあります。

また、米国駐在時代は、三木谷社長が出張で来られるときは、米国でも毎日この日報が見られるように、KPIレポートをプリントアウトしてまとめる作業を1人で毎回やっていた覚えがあります。本当に大変でした。

トップ自らがすべての数字を把握

楽天の強みは、この「Daily KPI Report」をトップ自らがすべて見ている点です。そのもとで働く経営幹部は当然のこと、一般社員までも数字に対しての感度は非常に高くなります。そして少しの変化に敏感になります。また、楽天を退社後、いろいろな会社にコンサルティングで入ったときに、この感覚が非常に使えることがわかりました。

たとえば、「転換率」(コンバージョンレート、CVR)というものがあります。これは、サービスによりますが、サイトに来たお客さんがどのくらい購入してくれたかの割合です。転換率が3.0%というのは、100人サイトに訪れた場合、3名の方が購入してくださったことになります。毎日3.0%で過去6日間推移している商品のCVRが、ある日、2.5%になったとします。これをどう考えるか。

0.5%の下落が1日あっただけなら、別に気にしなくてよいのでは? これが今月ずっと続くようであれば対策を打つべき、などと思う方がいるかもしれません。少なくとも私は、違うようにとらえます。

なぜなら、これは違う視点で見るとCVRが17%もダウン(2.5÷3.0≒83%)したわけです。これは何かあったのでは? と思うべきです。