「燗上がり」の鍵は、有機酸とアミノ酸
「燗上がり」の鍵の一つとなるのは、酸味だ。酸味の正体は、主に乳酸、コハク酸、リンゴ酸といった有機酸。これは、飲む温度の違いで酸味の強さや味わいが変わることが研究で明らかになっている。
具体的には、酸味の強さと味わいについて20℃(室温)を基準とした場合、10℃(花冷え)では「すっきりとした酸味」が、37℃、43℃(人肌燗~上燗)では「柔らかくきれいな酸味が感じられた」という官能評価が示された。一方で、50℃(熱燗)では、「最も酸味が強まるが、味のバランスが悪くなる」という結果となった。つまり、酸度の高い(有機酸の多い)酒は、特に人肌燗~上燗でおいしさが高まると言える。(図表2)
また、「燗上がり」のもう一つの鍵は、旨味やコクだ。これには主にアラニン、グリシン、アルギニンといったアミノ酸が関与している。こちらも有機酸と同じく温度変化によって味わいが変化することが官能評価で明らかになっている。
20℃と43℃の2点で官能評価をした結果、常温下では甘味、旨味、収れん味※、苦味が若干感知された。一方、43℃(ぬる燗~上燗)では甘味や旨味の強さは変わらないものの、収れん味や苦味が軽減され、温和でソフトな口当たりに感じられた。つまり、アミノ酸を多く含む旨味やコクが強い「どっしりとした」酒も、燗にすることで飲みやすくなると言える。(図表3)
※収れん味は、赤ワインで言うところのタンニンの渋味と似た感覚と言われる。なお、渋味は、苦味と収れん味が複合した感覚であるとも考えられている。
そもそも味覚は、舌にある「味細胞」が水に溶けた化学物質に反応することで生じる。そして味覚には「酸味」「甘味」「苦味」「塩味」などがあり、各種の味わいに対する感受性は舌の部位によって異なる、というのが一昔前までの通説だった。例えば、酸味は舌の側面で、甘みは舌の前面で最も敏感に感じられる……といった具合だ。しかし最近の研究では、むしろ舌全体の味細胞で各種の味わいを直接感受していることが分かっている。