2018年のNHK大河ドラマは「西郷(せご)どん」だ。主人公の西郷隆盛は、「空前絶後の偉人」といわれる。どんな相手にも分け隔てなく接し、だれもが「西郷さん」と呼んで慕った。西南戦争を起こした「逆臣」だが、明治天皇は「西郷を殺せとはいわなかった」と涙を流したという。その魅力はどこにあったのか。作家の城島明彦氏が解説する――。(第1回、全3回)

維新150年を飾る大河ドラマにふさわしい西郷隆盛

NHKが2018(平成30)年の大河ドラマの主人公に西郷隆盛を選んだのは、納得できる。2018年は明治維新から150年という年で、それに最もふさわしい人物となれば、維新最大の功労者の西郷隆盛をおいて他にない。内村鑑三が1894(明治27)年に英語で書いた名著『代表的日本人』では、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人、西郷隆盛の5人を取り上げたが、巻頭を飾るのは西郷である。つまり、長嶋茂雄が“ミスター・ジャイアンツ”なら、西郷隆盛は“ミスター・ジャパン”なのだ。

「いや、維新最大の功労者は西郷ではなく、坂本龍馬だ」という人もいるだろう。確かに、今日の幕末維新の人気ナンバーワンは坂本龍馬だが、すでに2010(平成22)年の大河ドラマ「龍馬伝」で描かれた。龍馬は、1962(昭和37)年6月から4年間にわたって産経新聞に連載された司馬遼太郎の『龍馬がゆく』がきっかけで人気化し、「明治100年」を記念した1968(昭和43)年のNHK大河ドラマにもなったが、それ以前の国民的人気ナンバーワンは西郷隆盛だったのだ。かくいう筆者も西郷隆盛が大好きで、今般、『考証・西郷隆盛の正体』(カンゼン)を上梓した。

一方、地味好みの人は、西郷隆盛と並んで“維新の三傑”といわれている大久保利通や木戸孝允(桂小五郎)の名を維新最大の功労者として挙げるかもしれない。彼らは、政治的手腕では西郷より上だったかもしれないが、国民的人気の点では西郷に及ぶべくもない。伊藤博文や高杉晋作らの逸材を育てた吉田松陰も維新の功労者だが、2015年の大河ドラマ「花燃ゆ」で主人公の兄として描かれた。加えて、2018年は西郷隆盛の生誕190年・没後140年という節目の年でもある。

よって、明治150年の大河ドラマの主人公は西郷隆盛しかいないのだ。「西郷(せご)どん」というNHK大河ドラマのタイトルは直木賞作家林真理子の原作を流用しているが、これは西郷隆盛の地元鹿児島を始めとする九州方面に限定された愛称で、一般には馴染みが薄かったが、今回の大河ドラマによって「せごどん」も一躍全国区となり、視聴率次第では来年の流行語大賞になるかもしれない。