子どもが飽きないために「うんこ」ネタをちりばめる
もちろん、もともとの想定読者である子どもに対しても手を抜いてはいない。子どもに愛されるネタを計算して入れている。筆者は取材に先立ちシリーズ2冊を、息子に1カ月ほど読ませていた。彼は仮面ライダーエグゼイドを愛する5歳児だが、3歳の時に恐竜に夢中になり、4歳で『小学館の図鑑NEO 危険生物』に夢中になった生き物好きでもある。ひらがなは読み始めたばかりなので、筆者が読み聞かせをしていたのだが、5歳の息子がひときわ喜ぶのは「うんち」と「おしっこ」についてのネタだった。「カンガルーの赤ちゃんは袋の中でおもらしする」「ザリガニは顔からおしっこをする」……彼が喜びのあまり奇声を発したページはこの類いである。
改めて目次を眺めると、これ系の話を一定間隔で配置してあるようにも見える。特に山下さんの手がけた「続」に顕著である。もしかして、子どもが飽きないように、あえてそうしているのだろうか?
「意識していますね、正直。特に、うんこの方は、一定数入れるようにしています。初代の後に出た『うんこ漢字ドリル』(文響社)もそうですけど、子どもにとっては普遍的なテーマなんです」
広報・宮越さんも「3ページに一つは入れています」と胸を張る。特に第二弾では社として大きな“冒険”に踏み切った。「うんち」や「おしっこ」にとどまらず「金玉」について紹介した話を、1ページだけ潜ませたのだ。
「このワードを入れていいかどうか、最後まですごく悩んでいたんです。最終的にちょっと入れちゃったんですけど。すごいチャレンジでした。ですが結果的にはすごい人気です。アンケートハガキに『好きな生き物はなんですか』という質問項目があるんですが、それのベスト5ぐらいには入っています」(山下氏)
こうした子どもにウケる鉄板ネタを飽きないタイミングで配置した続編も、狙い通り好評を博している。だがこのような面白い「ざんねん」からも、やはり生き物の「進化」の歴史を感じてほしいと山下氏は言う。
「この本のテーマは『進化論×トリビア』。進化って、言ってしまえば運なんですよね。その時その環境で、どういったものが生き延びられるかというところなので。もちろんすごい進化もたくさんあるんですけど、それだけじゃなく、しかも私たちから見るとざんねんに感じられてしまう進化っていうのがたくさんある。でもそれはもしかしたら動物たちにとっては大切なものかもしれないし、これから先、環境の変化が起きた時に役に立つ能力かもしれない。やっぱりその『ざんねん』の根本は進化にあると思っています。なので毎回、第1章に進化の話をちょっと入れています」
“第三弾”を望む読者からの声も社に届き始めた。現在、リサーチを進めている最中だという。他社から類似本も出始めたが「出るだろうとは思っていたので、やっぱり出たなという感じです」(山下氏)、「でも競合が出ると本家も売れるという効果もありますので」(宮越氏)と、余裕を見せる。
「あまり気にしないようにしています。類書を意識するよりは、自分たちがどれだけいいものを出していけるかというところに注力したいなって思っています。あとは営業力がすごくあるので、営業が売ってくれると信じています」(山下氏)
図鑑ジャンルにおける「ざんねん」ブームを巻き起こした「ざんねんないきもの事典」シリーズ。今日もどこかでこの本を手に取った読者に“なぜそうなった!?”という驚きをもたらしていることだろう。