DCUは2013年に始まったので作品数はまだ5本ですが、MCUは現時点でなんと17本。先々に公開が控えている作品もたくさんあります。今後、冒頭で触れたように「なんでスーパーマンが死んでるの?」と戸惑う観客が増えていくことのは必至。なのになぜ、クロスオーバー作品は製作され続けるのでしょうか。
「続編は8掛け」という経験則が……
筆者が短期間だけ映画業界に籍を置いていた90年代、ある先輩から「続編は前作の8掛け」と教わりました。ストーリーが継続している続編は、前作を見ていなければ観客がついていけない。であれば、作を重ねるごとに興収は少しずつ落ちていくものだ、という意味です。分冊百科の読者が巻を重ねるごとに「脱落」していくようなものです。
実際、その法則は2001年に第1作が公開された「ハリー・ポッター」シリーズにも当てはまります。ハリポタは2011年までの間に全部で8作品が製作されましたが、国内興収の変遷は1作目から順に203億円→173億円→135億円→110億円→94億円→80億円→68.6億円→96.7億円。最終作は長いシリーズの結末を描くということもあって回復しましたが、漸減傾向であることに間違いはないでしょう。日本映画の続編ものも、だいたいこんな感じだと思います。
ところが、クロスオーバー作品からは、異なる傾向が見て取れます。以下はMCUの主なシリーズの興収変遷ですが、明らかに3作とも作を追うごとに興収が上がっています。
08『アイアンマン』*データなしだが10億円以下と推察される
10『アイアンマン2』12.0億円
13『アイアンマン3』25.7億円
●「キャプテン・アメリカ」シリーズ
11『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』3.1億円
14『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』7.0億円
16『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』26.3億円
●「マイティ・ソー」シリーズ
11『マイティ・ソー』5.0億円
14『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』6.4億円
17『マイティ・ソー バトルロイヤル』*公開中
※タイトル前の数字は公開年。興収は日本映画製作者連盟の発表値などを参考とした(本文中の興収も同様)
これらのシリーズの間を縫うように、各ヒーローが集結して「お祭り」状態となる作品が、12年に『アベンジャーズ』(興収36.1億円)、15年に『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(32.1億円)として公開されました。いずれも大ヒットの部類に入ります。
それにしても、なぜ「8掛けルール」が通用しないのでしょうか。
終わりのないリゾート地のドライブ
実は、ハリポタとMCUには大きな違いがあります。ハリポタはストーリーが一本道ですが、MCUは並行して何本も道を走らせているのです。
ハリポタの目的は「目的地に行くこと=物語を完結まで付き合うこと」ですが、MCUの目的は「いろいろな道のドライブを楽しむこと=その世界観に浸ること」――とも言い換えられるでしょう。
たしかにクロスオーバー作品は、他に観ていない作品があると、物語を完全には理解できません。しかし90年代半ば以降、ほころびのない物語を完全に理解・把握することだけが作品鑑賞の態度ではなくなりました。その好例が、95~96年にTVシリーズが放映された『新世紀エヴァンゲリオン』ではないでしょうか。
同作は作品内で数多くの謎が提示されましたが、すべてが明らかにならないまま、物語を終えました。2007年からは劇場版でリブート作品が公開されていますが、謎が解かれるどころか、新たな謎が浮上すらしています。にもかかわらず、「エヴァ」はたくさんのファンを生み出しました。