「行けたら行く」を英会話で使ったらどうなるか

日本人マインドのコミュニケーションでは、相手を傷つけず、自分も傷つかないよう配慮しながら、お互いに「察してくれ」的にやり取りを進めることが多い。そうした日本人らしい発言のひとつが「行けたら行く」という言葉だろう。

これは暗に「行けない」ということを意味しており、私はこの言葉を使う人が大嫌いだ。ただ、過去にそういったことを書いたところ「直前まで行けるか分からないんだからしょうがねぇだろ」や「飲み会ごときでそんなにはっきりと宣誓を求めるなよ」式の反論が多数来た。それに対して、私にも“反論返し”はあるのだが、今回のテーマではないのでここでは触れずに進めよう。

まぁ、私は「行けたら行く」と言う人は今後誘わないと決めているが、この発言は日本人にとって極めて収まりがよく、使いやすいことも一方で理解している。たとえば、これを英語で伝えるとどうなるだろう。そして、その後の会話はどうなるか。

「Are you coming to the party next week?(来週のパーティ、来る?)」
「If I could, I would go then.(行けたら行くよ)」
「Are you coming or not?(来るの? 来ないの? どっち?)」
「I said I'd go if I could. Don't force me to make the final decision at this moment!(「行けたら行く」って言ってるじゃん! この場で最終判断しろ、なんて詰め寄らないでよ!)」
「We have to fix the number for reservation, just say yes or no!(予約のために人数を固めなくちゃいけないんだよ。行けるか行けないかだけ言ってくれ)」
「Alright, I'd go. But I can't promise you I'd go or not.(わかったよ。行くよ。でも行けるかどうかは約束できない)」

おそらく最後の発言を聞いて、予定を尋ねた人は大きなため息をつき、両手を広げて「意味わかんねぇ……」のポーズをしているはずだ。実にギスギスしているではないか。「行けたら行く」的なコミュニケーションは、英語で用いると違和感があり過ぎるのである。

世界のビジネス基準より、職場の人間関係

ただし、恋愛においては積極的に英語マインドになったほうが、たぶんうまくいく。

男:洋子さん、オレ、あなたを愛してる。付き合ってくれ。
女:いいわよ、浩さん。
男:オーマイガッ! オレは世界でいちばん幸せな男だ!
女:私もよ! さぁ、今晩デートしましょう。
男:どこに行きたい?
女:海の見える場所がいいわ。
男:だったらオレのBMWでキミの家まで迎えに行くから18時に待っててくれ。
女:いいわよ、楽しみにしているから。

このように、ズバズバッと物事が決まり、話が先に進んで行く。日本語で読むと実に恥ずかしいやり取りだが、これを英語に訳すと思いのほか恥ずかしくない。

というわけで、妙な配慮が求められる日本のビジネス環境において、日本式のコミュニケーションに慣れきってしまった人間にとっては、英語の公用語化はかなりキツいものになるだろう。

「そんな会話ばかりしているから、日本はガラパゴス化したんだ!」と指摘する声もあるだろうが、多くの労働者にとっては「世界のビジネス基準」といった大きな枠組みのことを憂慮するよりも、職場の同僚との人間関係をいかに良好にしておくかのほうが重要なものだ。

一律に「英語を公用語化しなければ日本企業は生き残れない!」と断じるような警鐘は、受け流すに限る。

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・「英語の社内公用語化」には反対だ。
・日本人どうしが英語で会話するのは、単純に気恥ずかしい。
・「英語が使えないと生き残れない!」などと断じて、危機感を煽るような論調には注意せよ。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
【関連記事】
ネイティブがあ然、日本人の「謎の英語」
あなたの会社は笑われている!一流企業の「変な英語」
日本支社に放り込まれる外国人上司の悩み
外国人の疑問「日本人はどうして本にカバーをつけるの?」
外国人の疑問「銀閣寺はどうして銀箔じゃないの?」