ベジタべライフ協力店の取り組み

ベジタべライフ協力店では、具体的にどのような活動をしているのか。番組では、協力店のひとつになっている焼鳥店を取材した。この店では客が席に着くとお通しとして、まず野菜を出すほか、一度に肉の串焼きと野菜の串焼きを注文した客には、必ず野菜の串焼きを先に出すことにしている。つまり「ベジ・ファースト」を、お客が気づかないうちに実践し、自然と野菜から食べてもらうという仕掛けになっている。

店を訪れたお客さんに実際に話を聞くと「野菜をなかなか食べる機会がなく、店で新鮮なものを食べられるっていうのは、非常に助かります」「野菜って出されれば食べるけど、自分からは積極的には食べようと思わないので、嬉しいです」とおおむね好評だ。

この他、ベジタベライフに協力するスーパーマーケットでは、カレイのフライなど人気のお惣菜につける野菜を以前より30%増やしたり、定食屋では日替りランチに地場野菜を使ったメニューを登場させたり、蕎麦店でもサバのみそ煮にキャベツ・果物等を付け加えたり、居酒屋では、料金はそのままで今までの佃煮や肉を含んだお通しから野菜中心のお通しに変えたりと、地道な試みがあらゆる店舗で行われている。

「普段使う店をいつも通りに利用しているだけで、野菜の摂取量が自然と増えている。健康になりたいと思って選択したわけではないのに、誰もが自ずと知らない間に健康になれる仕組みを作ったということです」と馬場さんは語る。

居酒屋で出た野菜を食べる客

こうした協力店には当然、区から補助金などの優遇措置があるように思われるかもしれないが、実は区からの補助は一切なく、足立区のホームページに、ベジタべライフ協力店として紹介されるだけだ。お堅い行政のホームページに店舗名が掲載されることで告知・宣伝になるという考えも浮かぶが、圧倒的なメリットはない。

しかし参加店を取材すると、どの店も「野菜を先に出すだけなら、ちょっとした工夫でできる」や「地元が健康な町になるなら協力したい」という声が多く、足立区民の健康改善に貢献しているという意識や、達成感を得ているところが多かった。「愛情のあるお節介」というと語弊があるかもしれないが、庶民的で昔から人情に厚い地域だからこそ取り組みが広がったのかもしれない。

さらに区では「ベジタべライフ協力店」を地元の飲食店だけでなく、大手のコンビニチェーンや牛丼チェーン店にも拡大する呼びかけを行なっている。これは働く人たちを中心に、スーパーで買い物をすることに馴染みがなかったり、地元の飲食店の営業時間中に家に帰れないといった人たちが多いことがわかったためだ。全国チェーン店は規模が大きいため取り扱う品やメニューが全国一律のことが多く、地域独自の取り組みに対応しにくいケースがあるが、馬場さんたちの説得で少しずつ実施し始めているという。

また、糖尿病予防のため、さらに踏み込んだ施策も用意している。足立区薬剤師会の独自事業として、糖尿病診断に使われるHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)の検査を区内10ヵ所でできるようにした。HbA1cは、赤血球の中で体内に酸素を運ぶ役目のヘモグロビンと、血液中のブドウ糖が結合したもので、糖尿病患者では血液中に顕著な増加が見られる。食事や飲酒、時間などによって変動する血糖値と異なり、HbA1cは濃度が安定しているため、HbA1cの値を調べれば、過去1~2ヵ月の平均的な血糖値の状態を知ることができることから、糖尿病の診断に使われる。検査は簡単で、指先からごく少量の血液を採取し、数分で結果が判明する。足立区ではこの検査を、区民であれば500円払えば薬局の店頭で手軽に受けることができるようにした。

また検査は受けっぱなしではなく、丁寧なフォローも行われる。糖尿病が疑われる数値(HbA1c 6.5%以上)の人に対し、薬局では医療機関で受診するよう勧めるほか、本人の同意を得たうえで、実際に医療機関で受診したかどうか、薬局から後日、本人に確認するサービスも始めている。HbA1cの値が7%を超えると、糖尿病の合併症リスクが高まるといわれており、これを超えないようにすることが、重症化を防ぐうえで重要だと足立区では考えている。