対中貿易赤字解消の糸口すらつかめず

もうひとつの懸案だったのが対中貿易赤字です。出発前に「(対中貿易赤字額は)口に出して言うのも恥ずかしい数字」といってトランプ大統領でしたが、<日中韓との貿易不均衡を抜本的に改善させる>という米国民との公約はすべて「先送り」。

習近平国家主席は2500億ドル規模の「おみやげ」(※3)をくれましたが、「証文」のほんの一部をちらつかせたにすぎません。

※3:米中首脳は、共同記者会見で中国が2500億ドル規模の貿易契約・投資協定に合意した発表したが、契約・協定の中身については公表していない。ワシントンの議会筋は、おそらく大半は「了解覚書」(MOU)や「政策趣意書」(LOI)で拘束力のない契約だと見ている。

「トランプはアジア人に完全になめられた」

「トランプはアジア人に完全になめられた」。ロサンゼルス近郊に住む先祖代々からの共和党支持のI・サンフォードさん(65)は、吐き捨てるようにこう言っています。ニュースはCNNやロサンゼルス・タイムズ、それにローカル紙のパサデナ・スター・ニュースから得ているそうです。

サンフォードさんはアイルランド系で、かつては中堅証券会社の役員でした。昨年の大統領選では、トランプ氏に渋々投票したそうです。

「北朝鮮問題を解決すると意気込んでいったのに習近平に軽くあしらわれ、韓国では反米デモに遭い、フィリピンの独裁者・ドゥテルテには人権のなんたるか、も説教できず。おまけにトランプが帰ったあとは、安倍(首相)も文(韓国大統領)もドゥテルテ(フィリピン大統領)の支持率は上がっているそうじゃないか」

「私が知る限り、米大統領がアジアでこれほどなめられたことは過去にはなかった。トランプは、中国からの2500億ドル超のおみやげ(米国製品購入)をもらって満足しているらしいが、どうせ空手形だろう」

「アジア歴訪は歴史の分岐点」ととらえる識者

識者たちはトランプ歴訪をどうみたか。筆者が米政治を考える時に常に注目しているジャーナリストと未来学者がいます。

一人はワシントン・ポストにコラムを書いているデイビッド・イグナチス氏です。もう一人は、未来学者のイアン・ブレマー氏です。同氏はNHKのニュースにもたびたび登場していますからご存じの方も多いと思います。

イグナチス氏は「トランプの121日間にわたる異常なほどのお追従歴訪」(※4)という辛辣な見出しの記事で、こう書いています。

「トランプは行く前にはこうなるとは考えてもみなかっただろう。が、1945年のヤルタ会談(※5)で米英両首相がスターリン・ソ連首相のソ連に東欧におけるヘゲモニーを受け入れたとすれば、今回は習近平に対し、トランプは『中国はパシフィック・パワー(太平洋でのもう一つの超大国)である』ことを正式に認めたといえる。これに対し習近平は『太平洋は十分に広く、中米両国を受け入れられる』と明言した」

※4;"Trump's extraordinary 12-day adulation tour."David Ignatius,Washington Post,11/14/2017
※5:ヤルタ会談とは、第二次大戦が終盤に入る45年2月、クリミアのヤルタ近郊にあるリヴァディア宮殿でルーズベルト、チャーチル、スターリンの米英ソ首脳会談。ソ連対日参戦、国際連合設立が話し合われたほか、中欧、東欧における米ソの利害を調整し、大戦後の国際レジームを規定した。

つまりこれからは米中で太平洋の覇権を二分割しようじゃないか、という合意ができたというわけです。