いっこうに衰える気配のない医学部人気。医師不足を受けてたびたび定員増が行われてきたが、入試難度は高止まり。2浪、3浪も当たり前になっている。医学部予備校「The Independent」の河本敏浩代表は、人気の過熱には「報酬と称賛の安定性」「地域要因」「昨今のキャリア教育」という3つの要因が存在すると分析する――。

※本稿は河本敏浩氏の新著『医学部バブル 最高倍率30倍の裏側』(光文社新書)の第1章「医学部熱の正体」を再編集したものです。

勉学努力へのリターンが圧倒的に安定

医学部熱が高まっている。なぜ子供たちは医師になりたがるのか。高校生・受験生の内面を推測するに、医師に対する就業欲求が生じる3つの要因が存在する。

第1点目は、報酬と称賛の絶対的安定性である。いくら医師が激務と言っても、働く場所や環境を調整すれば、納得できる報酬を得ることが、他の職業に比べて圧倒的に容易である。この点は、子供とは言っても高校生受験生も理解できている。しかし報酬面の安定性と並んで、あるいはそれ以上に、医師という職業によって得られる尊敬の念が、医師を目指す高校生受験生にとっては重要なのではないだろうか。

一般的に称賛を得られる仕事というのは、プロ野球選手であれ、将棋の棋士であれ、弁護士であれ、キャリア官僚であれ、入り口で厳しいふるいにかけられるか、就業してからふるいにかけられ続けるかのいずれかである。プロ野球選手や棋士は、そもそもその仕事に就ける確率が極めて低い。弁護士やキャリア官僚は、大学受験を経た後、改めて厳しい選抜試験に臨まなければならない。

その点、医師は医学部に入学することだけが、最大の関門である。もちろん医師国家試験や大学の単位認定は非常に厳しいが、司法試験や国家一種試験ほどの難しさがあるわけではない。医学部生として標準的な勉強をしていれば、ほぼ医師になれるという現実は、社会的な称賛を得られる職業に就くハードルとしては破格に低い。

いや、それでも入学試験は熾烈を極めるではないか、という反論もあろう。そういう反論に対しては、次のような再反論を試みたい。

最も受験者が多い河合塾の全統マーク模試で偏差値65に到達する者は、上位7%前後である(標準偏差の違いなどで変動するが)。もちろん、偏差値が65なら自動的に医学部に合格するわけではなく、あくまで目安に過ぎないが、それでも偏差値が65に到達すれば、私立医学部の合格圏内に入っていると判断することはできる。