現在の学校、特に高校は、教育メニューが非常に多彩になっている。中でも注目したいのは、キャリア教育の存在だ。キャリア教育の厳密な定義はさておき、ここでは進路選択、職業選択を支援するプログラムとして考える。現在はキャリア教育花盛りである。高校2年生の段階で、オープンキャンパスに参加することを夏の宿題にする高校が一気に増え、進路に対する意識の向上そのものを狙った課題や企画が、時節に合わせて次々と繰り出される。
加えて、ITや人工知能の発展により、20年後には現在の職業の大半が消失するという未来予測が、広く人口に膾炙(かいしゃ)している。サラリーマンの賃金は頭打ちで、リストラという言葉が社会的に定着しているように、安定した雇用自体がすでに危ういものとなっている。
今の職業の多くが消失し、雇用が危ういならば、進路について考えること自体馬鹿らしいことになるが、それでも考えろと、教師たちは次々と抑圧してくる。これが、現在の高校生が置かれた状況である。
「世襲」と「新規参入」の両方が促される
この人生の選択に関与する「キャリア教育」は、深めていけばいくほど世襲が起こりやすくなってしまう。選択肢が多様になればなるほど、実感の伴った選択は困難になり、唯一リアリティのある仕事が、親の職業ということになるからだ。
進路選択を子供と母親に任せ、どんな選択でも尊重しようと身構えている父親(医師)を前に、子供が医学部志望を表明して驚かせる、という構図は、おそらく珍しいものではないだろう。どんな職業であれ、子供が親と同じ職業を目指すという構図は、親にとってみれば自分の人生に対する最大の承認であり、これを喜ばない親はまずいない。
こうして、まず(勤務医であれ、開業医であれ)医師が家庭にいる子供が、医学部入学を熱望することになる。たとえ子供の志望が私立医学部で、学費が数千万円かかろうが、親はとことん支援する態勢作りに邁進することになる。