家族の問題を、会社に申告すべきかどうか

出世と家族、どちらを取るべきか。私の答えは「両方」です。もともと長男が自閉症を患っていて子育てには苦労しましたが、あるとき妻が肝臓病とうつ病を発症し、途中からその介護も必要になりました。

元東レ経営研究所社長 佐々木常夫氏 
1944年、秋田市生まれ。県立秋田高、東京大学経済学部卒業。自閉症の長男、肝臓病とうつ病を患う妻を抱えながら仕事でも成果を挙げ続ける。2001年東レ取締役、03年から10年まで東レ経営研究所社長。近著に『リーダーの教養』など。

東レのサラリーマンとして出世街道を走っていたつもりでしたから、その妨げになりかねない家族の問題は、会社に申告すべきかどうかの判断からして大変難しいものでした。

しかし、今から振り返れば、オープンにすればいいのです。最初は言い出せずに1人で抱え込んでいましたが、周囲に打ち明け会社に申告したら、とたんに物事がスムーズに運ぶようになりました。おかげで、同期で1番に取締役へ昇進することができたのです。

家族の問題を人に話したのは課長時代のことです。最初は部下たちに「私は家で子供が待っているので、毎日早く帰らなければいけない」と伝え、直属の上司にも個人的に説明しました。課の業務に支障が出ないようにするためです。思い切って話してみると、みんなすぐにわかってくれました。

会社勤めをしながらの育児と介護は、1人ではできません。私は出張のときには子供たちの祖父母に来てもらい、ちょっとしたことは近所の奥さんなどにお願いしていました。職場の協力、親族や地域のコミュニティの助力がなければ、仕事と介護は両立できません。まずは問題をオープンにして、周囲に協力を求めるべきなのです。

2017年1月には改正された「育児・介護休業法」が施行されました。介護を必要とする家族1人につき、年間93日の休みを取ることができます。介護のための早退や遅出も認められます。私の時代にはなかったものですが、こうした制度の存在自体を知らない人が多いようです。まずは今ある制度を知り、積極的に利用すべきでしょう。