目線を「社会のデザイン」に据える

現在、地球規模では地球温暖化、貧困、治安・テロなど、日本でも少子化・高齢化など、さまざまな問題が山積しています。こうした状況の中で、国際連合は「持続可能な開発目標」(SDGs)を掲げ、投資においてもESG(環境・社会・ガバナンス)の観点が重視されるようになり、世界の企業も地球や人類の問題解決に向けたビジネスに取り組み始めています。今や、自社の利益追求だけでなく、ビジネスを通じて社会をよい方向に変えることが求められているのです。

「獺祭」は中国、米国など海外での販路を拡大している。(Getty Images=写真)

組織目標の達成をゴールとするマネジメントやリーダーシップだけでは、こうした大きな課題に向き合うことはできません。利益の最大化や株主価値の向上、顧客ニーズの追求といった目の前の現実への対応に囚われてしまうからです。それに対してイノベーターシップは、組織や産業の枠を超え、目線を「社会のデザイン」に据えて、マネジメントとリーダーシップの力を発揮しながらイノベーションを起こしていく力と言うことができます。

イノベーターシップを発揮している人物の代表例として、起業家のイーロン・マスクが挙げられます。彼は宇宙開発ベンチャーのスペースXを創業し、将来の人類滅亡のリスクを回避するため、火星移住という壮大な目的を掲げてロケットの開発を進めています。このように、目指す目的が大きいほど、大きなイノベーションにつながる可能性があります。

複数の専門性から「知の交差点」が生まれる

イノベーターシップを築くのに必要な力として、「未来構想力」「実践知」「突破力」の推進エンジンと、それらを支える「パイ(Π)型ベース」「場づくり力」の5つが挙げられます。それぞれの概要とポイントは次の通りです。

▼未来構想力
イノベーションを起こすには、まず、どのような社会をつくるのかを描き出すことが必要です。それは、調査や分析から出てくる予測ではなく、自分が実現したい未来の姿でなければなりません。今、そこにある何らかの問題を解決したいという情熱や志が、未来を構想する出発点になります。

(1)未来の社会を見据えた自分の目的・夢・信念は何か?
(2)共通善に根ざした四方よし(自分よし、顧客よし、世間よし、未来よし)のビジネスモデルイノベーションを構想できるか?
(3)自分らしいオーセンティック(本物)な生き方に即しているか?

▼実践知
未来の構想は、ある日突然閃くものではありません。日々の行動や経験の中から紡ぎ出す知恵=実践知によって、少しずつ形づくられていくものです。実践から学び、未来につなげるためのあきらめない努力が重要です。それがなければ、構想は絵に描いた餅となるか、失敗で終わってしまいます。

(1)事象の文脈を読み、適時適切な判断を下す判断力
(2)考えてばかりいずに、あるいは自分の殻や持ち場、立場にかかわらずに、まず動く行動力
(3)自分の経験を内省し、的確なキーワードで共感を呼び起こすコンセプト力