増税の使途見直し度合いで異なる影響

以下では、前述の推計結果をもとに、増税使途見直しがマクロ経済に及ぼす影響を試算する。具体的には、増税使途見直しが実質GDPに与える影響を、借金返済の半分を社会保障充実に回す(自民党案)、借金返済分の全額を社会保障充実に回す(民進党案)、消費税率引き上げを凍結する(希望の党案)、についてそれぞれ先行き3年間の影響を試算した。

まず(自民党案)についてみると、2019年度には増税→消費減少による実質GDPの押し下げ効果は▲0.12%程度にとどまる。すなわち、現状との比較(資料では「見直しなし」)で見れば、2019年度には0.05%ポイント程度の実質GDP押し上げが期待できることになる。さらに2020年度には実質GDPが0.17%、そして2021年度には駆け込み需要の反動減の影響が緩和することで、実質GDPは0.05%程度の押し下げに止まることになる。こうした効果も加味すれば、自民党案のGDP押し上げ効果は2021年度時点で現状に比べて実質GDPを+0.14〔-0.05-(-0.18)〕%ポイント押し上げる効果を持つ。

一方、借金返済分の全額を社会保障充実に回す(民進党案)について見ると、社会保障の充実に伴う個人消費拡大効果が見られるものの、2019年度は増税によるマイナス効果これを上回り、実質GDPが▲0.07%程度押し下げられることになる。ただ、2020年度には乗数効果の顕在化により実質GDP押し下げ効果は▲0.06%程度に縮小し、2021年度には駆け込み需要の反動効果の出つくしなどで、実質GDPへの影響は+0.09%程度の押し上げ効果に転じる。つまり、民進党案のGDP押し上げ効果は2021年度時点で現状に比べて実質GDPを+0.27〔0.09-(-0.189)〕%ポイント押し上げる効果を持つ(資料3)。

そして、消費税率引き上げを凍結する(希望の党)の影響を試算すると、2019年度は+0.17%ポイント程度の実質GDP押し上げ効果となるが、2020年度には消費増税に伴う反動減がないことなどから実質GDPは+0.28%ポイント程度の押し上げ効果となる。そして2021年度には見直しなしのケースが駆け込み需要の反動減効果が剥落することから、その押し上げ効果は+0.18%ポイント程度にまで縮小することになる(資料4)。

なお、本試算では内閣府のマクロ計量モデルの乗数を用いているため、社会保障充実の効果が平均的に出現する試算となっている。しかし、相対的に限界消費性向(たとえば所得が100円増えたときにいくら消費に回すかの割合)の低い世帯を中心に社会保障の充実が図られることになれば、それだけGDP押し上げ効果も変わる可能性があることには注意が必要だろう。