また、夜間の徘徊の検知や見守りは、すでにさまざまな形でセンサーが実用化され、介護施設での介護者の夜勤負荷の低減に一役買っている。現在、多くの「見守り機器」は「ベッドから離れたことの検知」や「起き上がりの検知」を行うものが主流である。夜間の起き上がりを夜勤者ができるだけ早く知ることで転倒を防ぐ、といったものが多い。いわば「転倒予防」という問題に対する「対処療法」にとどまっている。

パラマウントベッドはこれを一歩進めて、センシング技術を活用して、よく眠ってもらうことで、そもそも「夜間に居室に急行する」という行為自体を減らす取り組みを進めている。同社は睡眠状態を「見える化・データ化」できるシート型センサーを使用し、導入介護施設と共同で、要介護者の日中の活動量を上げる、起床・就寝時間を調整するなどの介入を通じて入居者の睡眠を改善することを試みている。このように、技術革新を活用するには、「対処療法」に留まらず、より「原因」へ迫るアプローチを探るべきである。

パラマウントベッドの「眠りSCAN」。マットレスの下にシート型センサーを敷き、睡眠状態を「見える化」。睡眠そのものの改善につなげようとしている。(同社HPより)

専門性、質の向上に技術革新を活用する

業務量削減や負荷軽減だけではなく、技術革新を「介護の質の向上」にいかにつなげていくかという発想を持つことも非常に重要である。代表的な分野の一つが機能訓練・リハビリテーションである。

脳梗塞による麻痺などで様々な状態にある要介護者に、適切かつ効果的な機能訓練・リハビリを行うことは容易ではない。なぜなら理学療法士や作業療法士といったリハビリ専門職の多くは、病院などの医療機関に従事しているからだ。介護系の事業所に従事している理学療法士は1万人にも満たず(公益社団法人理学療法士協会 資料)、デイサービスや特別養護老人ホームに勤務している人は極めて少ない。

こうした「専門職不在」の中で効果的な機能訓練・リハビリを行うためには、技術革新の積極的な活用が求められる。例えば、ベンチャーのMoffはタブレットとウェアラブルのバンドを用いてリハビリ(個別機能訓練)を支援する「モフトレ」というサービスを提供している。このサービスを使えば、利用者は画面にあわせて効果的なトレーニングが行える上、活動結果が自動的にクラウド上に蓄積されるため、どのように機能訓練を進めればいいのかがデータで把握できる。

ベンチャーのMoffが開発した「モフトレ」。タブレットとウェアラブルのバンドを用いてリハビリ(個別機能訓練)を支援する。写真は都内で行われた製品発表会のデモ風景。手首にバンドが見える。

身につけて歩くだけで「推進力」「バランス」「リズム」といった歩行能力をデータ化するデバイス(早稲田エルダリー事業団の「AYUMI EYE」)や、3Dセンサを用いて歩行姿勢を測定するシステム(NECソリューションイノベータ)など、歩行・運動の定量的な計測・評価を行うソリューションも増えつつある。デイサービスにおける機能訓練の実施内容をビッグデータ化し、その個人に合った「パーソナルベスト」な機能訓練メニューを提示する「ICTリハ」を推進するエムダブルエス日高のような例もある。このシステムを使って「パーソナルベスト」な機能訓練を行った結果、通常の機能訓練を行った群に比べて、要介護度の維持・改善において優位な差があったという。

 

誤嚥防止や認知症診断にも活用

「専門家の不足を技術でいかに補うか」という視点で、技術革新の活用が期待される分野は機能訓練に留まらない。近年、介護施設における誤嚥性肺炎が増えている。嚥下・口腔の専門家は言語聴覚士や歯科衛生士であるが、こういった専門家も介護施設にはいることは少ない。嚥下機能や誤嚥のリスク等について、計測・評価ができれば需要は大きいだろう。

さらに、今後ますます増えていく認知症に対して、その専門医は圧倒的に不足している。認知症の早期の発見や適切な診断の支援についても、各種の技術革新が期待される。