専門用語以外は中学英語程度

こうした業務の海外への移管はインターネットと国際通信手段の発達のおかげで、2000年頃から急速に進んだ。それ以前は、英国企業はコールセンターをスコットランドなどに置くケースが多かった。しかし、発音がものすごく訛(なま)っている上に(スコットランドの人は「ア」を「ウェ」、「イ」を「エ」、「エ」を「イ」と発音する)、ナチュラル・スピードで話すので、私のような非ネイティブは閉口させられる。インド人やフィリピン人だと、ネイティブほどには速くしゃべらず、語彙も専門用語以外は中学英語程度なので、非ネイティブにも聞き取りやすい。

欧州でも社内のコミュニケーションを英語でやる会社は、世界中から人材を集めている。特にオランダや北欧のように、国民の英語力が高い国でこの傾向が顕著である。ちなみにスイスの世界的教育企業EF Education First社が毎年公表している英語を母国語とする以外の国の英語力ランキングでは、1位がオランダ、2~5位が北欧4カ国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)で、日本は35位である。

最近たまたまノルウェーの新興航空会社を取材する機会があった。フライバイキング(FlyViking)航空というトロムソを拠点にし、主にハンマーフェスト、ボードー、ナルヴィクといった北極圏の町に飛行機を飛ばしている地域航空会社である。

天草エアラインで使われていたフライバイキング 航空の機体の前で。ギーヴァー機長(左)と黒木亮さん(右)

なぜここに取材に行ったかというと、今、『サンデー毎日』で熊本県の天草エアラインのノンフィクション・ノベルを連載していて、天草エアラインや日本航空系の琉球エアーコミューターが使ったプロペラ機(DHC-8型機、39人乗り)3機がカナダのリース会社を通じてこの航空会社にリースされているからだ。

取材初日は、琉球エアーコミューターで使われていた機体に乗って、トロムソからスカンジナビア半島の北端近くのハンマーフェストまで往復した(機体は塗装も真新しく、まったくの新品に見えた)。乗客は地元の人たちだが、キャビンアテンダント(CA)の女性は黒髪で、肌が浅黒く、彫りの深い顔立ちだった。「ラテンぽいなあ。どこの国の人なんだろう?」と思わせられた。復路のCAの女性や、彼女を指導していたCA教官の男性もノルウェー人ぽくなく、やはり黒髪だった。

全員が英語で話すというのが礼儀

その晩、フライバイキング航空を創業した63歳のベテラン機長であるオラ・ギーヴァー氏(トロムソ近郊出身のノルウェー人)に会って話を聞き、その後、近くのパブで他の社員たちに合流した。

パブに行くと、ハンマーフェストまでの往路でCAを務めていた女性や数人のパイロットたちがワインを飲んでいた。聞くとCAの女性はメキシコ人で、ノルウェーに5年住んでいるという。復路のCAの女性はスペイン人、CA教官の男性はハンガリー人だった。

パイロットたちはノルウェー人もいたが、その他はスペイン人やイタリア人で、現在25人ほどいるパイロットの大半は欧州を中心に世界中から採用しているという。

そこでの会話はすべて英語である。ギーヴァー氏と機長の1人が、あるパイロットの処遇をめぐって議論をはじめたが(そのパイロットがギーヴァー氏のいうことを聞かないらしい)、2人ともノルウェー人なのに、英語で「ボスのいうことを聞かない人間は辞めるしかない」「しかしそれではパイロットが足りなくなる」と激しい議論をしていた。現地の言葉を解さない人がいるときは、その人を蚊帳の外に置かないように、全員が英語で話すというのが礼儀だが、このルールがよく守られていた。

翌日は、ギーヴァー氏自ら機長を務め、天草エアラインで使っていた機体でヴェステローレン諸島への8区間を飛んだ。私はそのうちの4区間でコクピットのジャンプシートにすわり、操縦を見せてもらった。