『いいとも』レギュラー加入の翌年に放送された2回目の“フジテレビ版「24時間テレビ」”である『1億人のテレビ夢列島'88』には、早くもタモリとともに総合司会を務めた。そのことからも、『いいとも!』とタモリが、鶴瓶の東京での浸透に大きな役割を果たしたことがわかるだろう。
鶴瓶が『いいとも!』レギュラーを継続した理由
鶴瓶はタモリを「テレビの師匠」だと言う。
実は、レギュラーになって10年近く経った頃、鶴瓶は『いいとも!』降板を申し出たことがあった。様々な理由があったが、所ジョージ、さんま、鶴太郎といった同世代の盟友たちが番組を去ったこともその一つだった。自分も身を引いたほうがいいと思ったのだ。スタッフも了承し、4月に卒業という形で決まっていた。
そのことを直接伝えるため、鶴瓶はタモリを呑みに誘った。
そこで鶴瓶は正式に『いいとも!』降板の報告をするとタモリが珍しく強い調子で言った。
「ダメだよ」
鶴瓶にはその頃、自分自身の現状にモヤモヤしていた。日本全国で認知こそされてはいるが、自分自身の芸風が確立されているわけではない。もっと自分らしいテレビの出方が東京でもできるはずだ。
そのためには『いいとも!』を辞め、退路を断たなければならない。そうすれば、もっと自由に自分自身を出せるかもしれない。そんな思いがあったのだろう。
だが、そんな鶴瓶にタモリは言った。
「あなたね、『いいとも!』はね、ジャブが効いてくるよ。あなた絶対やっときなさいよ」
そのアドバイスに従い、鶴瓶は『いいとも!』レギュラーを継続したのだ。
タモリが、そんな風に共演者を慰留することはほとんどない。タモリにとって鶴瓶は特別な存在だったのだろう。
「鶴瓶は歳が近いこともあって、共感する部分も多いし、話も楽」「若い頃に観てきたものも、ちょっとした古いギャグも共有できているし、安心感もある。たくさん話すわけじゃなくても、一番分かり合えている」と語り、こう評している。
「彼は人間としての芯というか、男気みたいなものを持っている。だからちゃんと話せますよね。
話っていうのは、そこを認めていないとどうしても上滑りというか、『この人にはここまで言っても分かんないだろうし、話す必要もないだろう』ってことになるんですよ。でも彼とはそれがまったくない」
『いいとも!』などでよく見かけた光景の一つに、鶴瓶が何か身振り手振りで熱っぽく語っている最中に、タモリが「目、細いね?」などと、まったく脈絡のないフリを挟むというようなやりとりがある。
「テレビというのはのぞき穴みたいなもの」
「なんでそんないらんことするん?」と鶴瓶が尋ねるとタモリはこう答えたという。
「放っておいても絶対笑わせられるのはわかってる。みんな笑わせるセオリーを持ってるから、そこでわざと無理難題を吹っかけてみると、次の笑いを求めようとして新鮮なものが見られる。これが、マンネリ化を防いでる」
タモリは、セオリー通りになりそうな空気を感じた時、そこに予期せぬフリを入れることでハプニングを誘発させ、予定“不”調和な空間を作る。それこそが「いま」を映すテレビの醍醐味なのだ。
鶴瓶はそんなタモリと共演を続けたことで「テレビというのはのぞき穴みたいなもの」だと確信した。
「こうしたら笑いが取れるだろうというセオリー通りのものは面白くない。テレビは完成された芸を見せるのに適さないです。完成された芸というのは時間と空間を共有して、生で見せるものですから。テレビはセオリーにないことが起こった方が面白い。
だからボクはセオリーを崩そうと思います。そういうことを続けると、相手も自分の邪魔をしてくるようになる。すると自分の中でわからない変化が生じて、全然違う自分が発見できるんです。それがまた楽しい」
そうしたテレビの即興性を大事にする考え方はそっくりだが、彼らの興味の対象は正反対だ。