ハイテク化でもヒューマンエラーはなくならない
そのころ世界の航空機メーカーが目指していたのが、ヒューマンエラーという人間の犯すミスをできる限り少なくして事故を未然に防ぐ試みだった。
米ボーイング社のハイテクジャンボ機「747-400(通称ダッシュ400)」や欧州エアバス社のA320など新型機は航空機関士の作業をすべてコンピューターに任せ、操縦は機長と副操縦士の2人体制に設計変更された。
しかしハイテク化が進んでもヒューマンエラーはなくならなかった。
たとえば1994年4月、名古屋空港で乗客乗員計250人以上が犠牲になった中華航空機(A300)の墜落事故は、操縦士の操縦とコンピューターによる自動操縦装置とが反発し合った結果による失速事故だった。
簡単にいえば、人間とコンピューターが噛み合わず、人間がハイテク機を使いこなせずに起きた事故だった。
ボーイング社は事故原因を明らかにせよ
日航ジャンボ機の32年前の墜落事故も、ヒューマンエラーが原因である。破損した後部圧力隔壁の下半分を交換した際、どうしてマニュアル通りにリベットを打って補強しなかったのだろうか。ボーイング社は修理ミスを犯した事実は認めたものの、当時の日本の航空事故調査委員会や群馬県警の調査や捜査には一切、答えていない。もちろん直接修理を担当した作業員に対する事情聴取などは全く実現していない。
32年たったいまでもボーイング社の責任はなくならない。世界の空から事故なくすためにもボーイング社は謙虚に対応し、事故の原因を全て明らかにすべきである。
日航グループの9割を超える社員は、事故後に入社している。高齢化で御巣鷹の尾根への慰霊登山に参加する遺族も年々減ってきた。だがパイロットや管制官ら航空関係者は事故を風化させることなく、空の安全を守り続けてほしい。それとともに次世代に事故の教訓を伝えていくことも忘れてはならない。
横山秀夫氏を押しつぶした事故の凄惨さ
8月11日付の朝日新聞朝刊(東京本社発行)は日航ジャンボ機墜落事故を扱った小説『クライマーズ・ハイ』の著者で、上毛新聞の記者だった横山秀夫氏のインタビュー記事を掲載していた。内容が深く、興味を引きつける記事だった。
インタビューの中で、横山氏はこんなことを暴露している。
「(事故のノンフィクションは)ほとんど書けなかった。一報を聞いて墜落現場に向かい、8時間かけて山を登って到着し……そこで筆がぴたりと止まって。現場を書こうとするたび嘔吐(おうと)して。あの事故を踏み台に世の中に出よう、生活費を得ようなんて考えた自分に押しつぶされたんでしょうね」
同じ時代に新聞記者という仕事に就いていた沙鴎一歩には、横山氏の気持ちはよく分かる。現場には行けなかったが、同僚記者から現場の様子をこんな風に聞いたことがある。
真夏の暑い日差しのなか、死臭と燃えたジェット燃料の臭いが鼻をつく。シートベルトで胴体が2つにちぎれた黒こげの遺体があちこちに転がり、上を見上げると、木々に人の手足がぶら下がっている。散乱した遺体を踏みつけないように現場の斜面を上り下りしながら取材を続けた――。
先輩記者から「現場を取材した他社の記者のひとりが、あまりの悲惨さに世の無常を強く感じ、記者の仕事を辞めて出家した」という話も聞いた。