「働き方改革」は労働者の選別である
――残業時間の削減には、業務の量を減らすことが必要でしょうね。
残業をしないと終わらない量ならば、業務の量を減らすのが前提でしょう。ところが、量を減らすことなく、「労働者の努力と根性で仕事を終えて、早く帰れ」と言っているように私には見えます。時間内に仕事を終える人が優秀であり、そうではない人は敗者となる。結局、会社の残業代の総額だけが減るようになっているのです。
こうした選別の流れは今後、強くなります。経済界全体が、そうした労働者の選別を意図しているように思えます。残業時間を減らしたふりをしているだけで、業務の量が減っていないという本質的な問題は残ったままです。
――では、今後、社員の淘汰が進んでいくのでしょうか。
「働き方改革」とは、労働者の選別なんです。基幹社員として会社を担う一握りの「優秀」な人材。名ばかり正社員の「限定正社員」。「一つの企業にだけに束縛されない」というダブルワークやトリプルワークのパート社員。派遣社員や請負の労働者たち。そして、「労働法」の権利すら与えられない「なんちゃって個人事業主」がいます。
今後も、このような選別はなくなりません。選別をするために、会社は「人事評価」を行うわけです。
私が企業との団体交渉に参加した事例でいえば、ある大手企業では、上司が部下をAからFまでランク付けしていました。一番低い「F」を2期連続してとると、退職勧奨の対象になるのです。これが怖いから、社員は働きます。ところが、「F」になる基準があいまいなのです。
私が会社側に聞くと、「成果」「上司の心象」という回答がありました。その詳細な基準が第3者にはわからないような、いわば、「個別」に処遇されているのです。上司がおのおのの部下を個別に評価していくので、外から評価プロセスはわかりません。
成果主義は2000年前後で曲がり角を迎え、いったん後退しました。しかし実は、形を変えて浸透しているのです。社員おのおのを個々に、評価や実績などで一段と判断するようになっています。しかも、外からはわからないように巧妙になってきているのです。
成果主義の浸透と、残業規制、業務量の維持は、3点セットです。残業をしなくても仕事を終わらせる優秀な人を評価し、敗者は排除されます。優秀な人ほど、高い評価を得ようと無理をします。人工知能が企業の現場で浸透し、今後は仕事を奪われる社員が現れます。経費削減のアウトソーシングも一段と進みます。大企業では基幹社員はごく少数になるはずです。多くは淘汰され、「使い捨て労働力」となります。