エクスパットの悩み~最大の壁は商習慣の違い
しかし、エクスパットにとって、日本でのビジネスライフはそう簡単ではない。社内には英語が話せる社員が少なく、コミュニケーションが不自由。外に出れば読める文字もほとんどない。食習慣も文化もまるで違う。もっとも大きなハードルになるのは“商習慣”の違いだ。
「日本の製薬業界は独特の商習慣があり、価格設定のしかた一つとってもアメリカとは違います。その中で売り上げを伸ばし続けるのは、日本に来たエクスパットたちにとって大変なプレッシャーなのです。もう一つ、私は人事だったため、一番苦労したのは、『新卒採用』という習慣と、それに関するお約束があることを彼らに理解してもらうことでした。例えば再来年の新卒を採用するために、Webサイトを開設して、こんな活動をするので予算をいくら欲しいと申請すると、各事業部長に説明をしにいく度に『今期の売り上げも決まってないうちに、再来年のヘッドカウントが取れるわけがないだろう! なぜそんなことをする!』と激怒されるんです。
そこで事業部長にひとりずつ、日本の新卒採用の仕組みを全部説明し、『その時になって採ろうと思っても、うちみたいな外資では新人はひとりも採れませんよ。2年前から仕組みを作って活動する必要があります』と説明するわけです。毎年開始時期が決められていて、各社一斉に活動を開始すること、フライングは許されないことなども含めて、根気よく説明します」(河野氏)
海外では、新卒者をまとめて一斉に採用する習慣は、まずない。学生は、卒業と同時に就職しなければというプレッシャーがないし、真っ黒なリクルートスーツに身を包んだ真夏の就職活動もしない。しかし逆に言えば、一括採用がないということは、いつでも経験者と中途採用枠を争わねばならないということだ。そのため学生たちは、学生のうちにさまざまな企業でインターンの経験を積んでおく。こまめにインターンで実績を積み、空きを見つけては応募して、自分には何ができるかを訴えるのだ。
そういうバックグラウンドから来たエクスパットは「そもそも新卒はいらない」と言い始めることもあるという。そのたびに河野氏は、会社の文化のギャップを作らず、継承者を育てる必要性があること、日本の採用習慣について説明を続けてきたという。「四半期ごとに成績を見られている人たちが、『再来年のお金』と言われて困るのはわかります。人事も大変だけど、エクスパットも大変です」(河野氏)